第17回 『夜霧のジョギジョギモンスター』

　80年代にソニーから発売されていたビデオレーベル「EXC!T!NG」（Iが!に）は、テレビや映画館では観られない珍しい東南アジアホラーの宝庫として、マニアの注目を集めていた。中でもインドネシアの作品は、当時まだ謎のベールに包まれていて、キリスト教圏の作品を観慣れたホラーファンは、それらイスラム教圏の作品を観てカルチャーショックを覚えたものだ。それにしてもだ、インドネシア語原題『悪魔の奴隷』が、なぜゆえ『夜霧のジョギジョギモンスター』に？　ジャケに写っているゾンビみたいな奴が人を襲って「ジョギッ」と斬り付けるのか？　本編で探ってみよう。

　裕福な資産家ナムルト家では、夜な夜な亡くなったばかりの夫人が化けて出て、子供達を怯えさせていた。弟のトミーは胡散臭い占い師に黒魔術を勧められ、部屋に閉じ籠って怪しい儀式にハマり、姉のリタも次第に荒んでいく。ディスコパーティに行き、野外でセックスして深夜にカレシの車で送られてくると、遅い帰宅のお嬢様に使用人のジイヤが、「亡くなったお母様のために、お祈りをなさった方がいいですよ」と説教（その通り）。だがリタは「放っといて！　うるさいわね」と悪態をつく。このように母親が死んで家庭がギスギスしてきても、仕事が忙しくて子供達を構ってやれないパパさんは家政婦（メイク濃厚）を雇う。だが、そいつの正体は悪魔だった！

　さて、この家族のことをどこから聞いたのか、イスラム教の帽子を被った謎の中年男がナムルト家の周囲をウロチョロし始め、本屋で黒魔術の本を立ち読みするトミーにコーランを渡し、「黒魔術をやめなさい。祈れば楽になる。神を信じない家には悪魔が入り込む」と説教。その夜、イスラム法衣に着替えたトミーは部屋で神に祈りを上げるが、翌朝、倉庫の中で首を吊っているジイヤを発見！　悪魔の見せしめだ。

　こんな状況のリタの家を厄祓いしようとカレシは、バイクで悪魔祓い師の所へ向かうが、前方に歩み出た女を避けてトラックと正面衝突し、脳ミソ飛び出て即死。群集の中にはさっきの女。それはスカーフで顔を隠した家政婦だった！

　終盤、やっと家政婦が怪しいと睨んだトミーは、深夜に家から抜け出る彼女を尾行。すると家政婦は、ゾンビ、いやジョギジョギモンスター（以下ジョギモン）となったリタの元カレとジイヤを従えて墓場へ行き、土中からトミーの母親を蘇らせる。家に逃げ帰るトミーを追う、悪魔の奴隷と化したジョギモン軍団！　ジイヤのジョギモンはトミーを、元カレのジョギモンはリタを襲い、ママさんジョギモンは「キシャ～ッ」と猫が怒ったような声を出し、パパさんを引っ掻きまくる。そして大きなカーリーヘアでさらに厚塗りメイクとなった家政婦が、ついに悪魔の正体を現す。「神を信じない者は滅びる。祈らない者は滅びるのだ！」とナムルト家の信心の浅さを、悪魔までが説教！

　ここでトミーにコーランを渡した謎の男が颯爽と登場。男は寺院の偉い人だったのだ。外には松明を持った大勢の門弟達も控えていて、師の号令で全員「アラーは偉大なり」を繰り返し読誦。苦しみながら次々と倒れるジョギモン。悪魔の家政婦はナイフをかざして師に接近するが、これまたコーランの前に屈し、炎に包まれて滅びる。祈れば勝つ！　翌日、寺院で家族揃って礼拝するナムルト家の姿が......。

　随所で繰り返されるイスラム的な説教......で、いったい何がジョギジョギだったのか？　まさか、日本で7年間お蔵入りしていて1984年にやっと公開された伝説のホラー映画『サランドラ』（リメイク『ヒルズ・ハブ・アイズ』）で配給の東宝東和宣伝部が、一瞬だけ映る殺人鬼の武器を「ジョッキリ切るからジョギリ」と名付け、「ジョギリ・ショックがやってくる！」というコピーで宣伝したあの「ジョギリ」を、語感だけで借用したのではないでしょうね？