俳句は「食」が作品の中心になるユニークな詩

歳時記にたくさんの旬の食べ物が記載されているように、俳句は「食べ物の季語が作品の中心になることがある」詩です。「群青」共同代表の櫂 未知子(かい・みちこ)さんは、この点において俳句は実にユニークだと語ります。

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「俳句は実にユニークな詩ですね」と言われたことがあります。「どういうことですか」と尋ねたら、「ほら、『食べ物』が一句のメインになっていることが結構あるでしょう」という答えが返ってきました。なるほど。
お隣の定型詩である短歌では、一首のメインを占める部分に「食」が配されていることはあまりありません。時に食が重要な役割を果たしていることはありますが、それはその歌の意味や価値を決定づける方向にはなっていないように思われます。あくまでも、その一首の味付けといいましょうか、作品の中心ではなく、ちょっと脇役かしらという感じが多いようです。
似たことが、現代詩にもいえます。私は、食の喜びを謳歌(おうか)するような詩の作品にほとんど出合ったことはないように思えます。食事そのものを作品化したものはあまり見たことがありませんし、もしかすると、これからもないかもしれません。
小説についても同様です。コミックやテレビのドラマには食の場面が散見されますが、「食そのものの小説」に出合った記憶はないのです。クレッシングの『料理人』(1965年)はめくるめくような料理が出てくる小説ですが、そこでもメインは食そのものではなく、理屈を超えたものが中心になっています。謎だけが描かれているといえましょうか。
■『NHK俳句』2021年11月号より

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