釈迦の後継ぎ・弥勒菩薩に会いに行こう

本尊の弥勒菩薩坐像は、三宝院の特別拝観でお参りすることができる。撮影:岡田ナツ子(Studio Mug)
世界文化遺産に登録されている醍醐寺には、木造建築や彫刻、書画など多くの文化財が伝えられています。数ある仏像の中から今回選んだのは、将来、釈迦の後継ぎとして、人々を救済するために、今も天上界で修行を積んでいる弥勒菩薩です。駒澤大学教授の村松哲文(むらまつ・てつふみ)さんと共に、未来を託せる心強い美仏(みほとけ)に会いに行きましょう。

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弥勒菩薩は釈迦の後継者として、将来を約束されています。後を継ぐのははるか先で、残念ながら、私たちにそれを待つことはかないません。弥勒菩薩に関する代表的な経典である『弥勒下生経(みろくげしょうきょう)』には、「兜率天(とそつてん)にいる弥勒菩薩が、56億7000万年後にこの世にやってきて如来となり、釈迦が救えなかったすべての人々を救済する」と説かれています。
そのために、弥勒菩薩は現在、兜率天で修行を続けています。弥勒菩薩は釈迦が亡くなる12年前に、天界の兜率天に昇りました。兜率天は仏教の世界の中心、須弥山(しゅみせん)のはるか上にある神々の住む世界(浄土)で、如来の候補者が必ず集まる場所。一説に、釈迦の母である摩耶夫人(まやぶにん)も住んでいるとされます。
なぜ、たくさんの菩薩がいる中で、弥勒菩薩が次期後継者に選ばれたのかといえば、釈迦が弥勒菩薩の能力を高く評価したためでしょう。『弥勒上生経(みろくじょうしょうきょう)』には、弥勒菩薩が祇園精舎(ぎおんしょうじゃ/釈迦の説法が行われたインドの僧院)で釈迦の説法を聞いていたとき、たちまち釈迦の教えを理解してしまった弥勒菩薩を見て、「この菩薩なら、必ず私と同じ悟りを得ることができるだろう」と感動し、将来を約束したということです。
56億7000万年後に、現世にやって来る弥勒菩薩(弥勒如来)は、龍華樹(りゅうげじゅ)という木の下で悟りを開きます。その後3回の説法会「三会(さんねの)説法」を行い、このときに釈迦が救えなかった人々を救うといわれ、、これを「龍華三会(りゅうげさんね)」といいます。3回に分けて行われた説法では、合計で282億人が救われると説かれています。この膨大な数字は、弥勒菩薩が弥勒如来となって、すべての人々を救うことを意味しています。
飢饉(ききん)や災害が続き、世の中が不穏な平安時代末期には、人々はこぞって仏教に救いを求めました。弥勒菩薩の救済力に頼るにしても、ただ黙って待っているだけではなく、自分たちも努力しなくてはならないと考えたのかもしれません。写経をし、そのお経を地面に納める「埋経(まいきょう)」の習慣が生まれたのです。
お経を金属製の筒に入れて埋めたり、経文を書いた瓦を埋めたり、あるいは石にお経の一文字を書いたりと、当時の人々はさまざまな方法で功徳(くどく)を積みました。お経を埋めたところは「経塚(きょうづか)」といい、今も各地に残っています。
というわけで、釈迦から如来になるためのお墨付きをもらった弥勒菩薩は、そのときが来る今も修行を続けています。その様子を表現したのが、静かに瞑想を続ける弥勒菩薩の姿です。
■『NHK趣味どきっ!アイドルと旅する仏像の世界』より

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