鶴山淳志八段 vs. 中野泰宏九段 武士の戦い

左/鶴山淳志八段、右/中野泰宏九段 撮影:小松士郎
第69回 NHK杯 1回戦 第15局は【黒】鶴山淳志(つるやま・あつし)八段と【白】中野康宏(なかの・やすひろ)九段の対局となった。永代和盛さんの観戦記から、序盤の展開をお伝えする。

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■武士の戦い

中野泰宏九段は14回目の出場。手厚い棋風が映し出すように、安定感は抜群だ。性格のほうも棋風に似て温和で、中野がいる空間はゆったりとした時間が流れているように感じる。趣味も合気道と津軽三味線とあって日本文化である「和」が好きなようだ。大棋士の呉清源九段は囲碁を「陰と陽の調和である」と評したことがある。中野は自然と囲碁との共通点が多いものを好むのかもしれない。
対する鶴山淳志八段は、積極的に戦いを挑んでいく力強い「武士」のイメージ。昨年度『囲碁フォーカス』講師を務めた際には「戦(いくさ)上手」になるための講座を担当した。明るく分かりやすい解説が好評で、テレビ解説や動画配信解説では引っ張りだこの人気棋士である。ただ、『囲碁フォーカス』をご覧になった方はご存じだと思うが、碁盤から離れてみると明るく気遣いのできる3人の子を持つお父さん。少年のような笑顔で周りの人を魅了する。

■左右同型?

立ち上がりはお互いにダイレクト三々へ。黒13に続いて白Aなら左右同型だったが、白14と外した。続いて黒15に対しての白16は記者の目には謙虚に映る。ほぼ左右同型なのだから、白Bなどで先制攻撃してみたい。しかし、下辺は右下白に利きがある分だけ黒のほうが強い。黒16の反撃で白が困るだろう。


■意表をつかれる

黒は右下隅の白への利きを使って積極的に仕掛けていく。黒17と白二子のダメをつめて、黒19で「ケイマにツケコシ」。手筋のオンパレードである。対して白は22が機敏な切りで、これを忘れて1図の白1、3は、黒2から4と守られる。これでは実戦と比べて白3が不要なので、中央の戦いに一手後れてしまう。

さぁ、白26と要石を動き出して大乱戦の始まりである。鶴山は黒29と精いっぱいに頑張っていく。中野は黒37あたりを予想していたようで「ここまで頑張られるとは…」と、白30では迷っていた様子。白Aの穏便策もあったが、結局は白30から36という強硬策に打って出た。黒37に続いて、白は2図の白1と切る一手に見えるが、鶴山は「黒2から8と△(黒)三子を捨てるつもり」と対策済み。確かに見返りとして、黒を分断している△(白)二子の要石がもらえれば満足できる。ここは白が38と、かわし気味で打って反撃の機会をにらむ。

しかし、白44と頑張ってコウを目指したのはどうだったか。隅は早く捨てて、3図の白1、3と連打すれば下辺の白も立派だ。これで好勝負だろうという検討がされた。実戦は黒45とツキ出たのが強烈なうえに、黒59と隅の白を制しては黒が打ちやすそうだ。 
※終局までの観戦記はテキストに掲載しています。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年9月号より

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