「憧れの久保先生と」……服部慎一郎四段の自戦記

左/服部慎一郎四段、右/久保利明九段 撮影:河井邦彦
第71回NHK杯1回戦第7局は服部慎一郎(はっとり・しんいちろう)四段と久保利明(くぼ・としあき)九段の対局となった。服部四段の自戦記から序盤の展開をお届けする。

 



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■憧れの久保先生

私が三段のころ、久保先生から研究会のお誘いをいただき、月に一度、将棋を教えていただいた。誰もが知っている将棋界きっての振り飛車党で、軽快なさばきを得意とする。久保先生から駒の効率や粘り強さなど、多くのことを学ばせていただいた。将棋の腕前だけではなく人柄も素晴らしく、とても温厚で優しい先生である。いつか私も歳をとったときに久保先生のような魅力あふれる棋士になっていたいと思う。
NHK杯戦は将棋を始めたころから見ており、いつか自分も出たいと思っていた。出場を決めた日はうれしかった。
この対局に向けて自分なりにいろいろな策を練ったが、どの筋に飛車を振ってこられるか分からなかったので、最終的には伸び伸び指そうと決めた。
本局は△4二飛(1図)と四間飛車になった。速攻するような急戦策も視野に入れていたが、対局直前に気分が変わり▲9八香と穴熊(2図)を目指した。普段は穴熊をあまり指さないので一体どう組むのがいいのか?後手も流行の構えで、先手にも工夫が求められる形となった。



■穴熊 vs.トーチカ

私の趣味のひとつにランニングがある。当日の朝、ホテルを出ると、あまりの天気の良さに走り出したくなった。奨励会員だったころ、久保先生や他の先生方と一緒に大阪城のナイトランに参加したことがあった。こうして公式戦で対戦できると思うと感慨深いものがある。
先手は▲8八銀で穴熊に組む。後手も△7一金~△8一玉でトーチカを目指す。後手の布陣はあまり見慣れない方も多いと思うが、近年プロ間でよく採用されている構えだ。美濃囲いよりも玉の位置が低くて堅いのが魅力である。対局中は工夫をしなければいけないと思っていた。
▲8六角(3図)と6四の歩を狙い、揺さぶりをかけた。対して△6三銀と受ける手も有力だが、本譜は△6三金と上がってきた。後手玉は薄くなってしまうが、後に△6五歩からの攻めがある。積極的と言えよう。

△6三金を見て、こちらも上部の戦いに備えようと思い、▲7八金と上がった。この辺りまでは普段どおりのペースで指せていた。どこで時間を使うか難しいが、この日は指したくなったら指そうと決めていた。
お互いに玉の整備ができたので▲3八飛と寄って次に▲3五歩を見せる。本譜は△4四角と受けられてしまい、▲2八飛には△3三角で千日手模様となる。本譜は遊んでいる角を使おうと▲5九角からの転換を目指す。△6三銀に対して、▲2八飛と寄ってから▲5五角(4図)とぶつけて勝負に出た。飛車を2筋に戻るのが急所で、3八のままだと飛車が不安定である。

※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2021年7月号より

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