森けい二九段、将棋とは縁のない少年時代

NHK杯で畠山鎮七段と対局する森九段 撮影:河井邦彦
昭和から平成へ幾多の大勝負を戦い抜いたレジェンドが棋士人生を振り返る別冊シリーズ「レジェンド・ロングインタビュー」。第2回は終盤の魔術師、森けい二(もり・けいじ)九段が登場します。異例の晩学、失意の奥多摩行ギャンブル、そして断食、伝説のアマ強豪との指し込み勝負、全裸でひらめいた妙手……型破りなエピソードを語りつくします。本稿では、その中から幼少期から内弟子生活までを抜粋してお伝えします。
文/内田晶

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■将棋とは縁のない少年時代

雄大な四万十川が流れる高知県中村市(現在の四万十市)で森は生まれた。豊かな大自然に囲まれて育った森少年が将棋に出会うのは、だいぶ先のことになる。
「ずっと高知にいたら将棋を覚えていなかったかもしれないね。子どものころから記憶力だけはよかったんですよ」
少年時代を大阪で過ごしていた森一家だったが、中学2年のときに父が他界したことをきっかけに、母と東京に出ることになる。恵比寿での生活が始まった。
東京に来て広尾中学校に転校したのが転機になったのだから、人生は誰がいつどこでチャンスに巡り会うかわからない。
「あるクラスメートと仲良くなって。気が合って親友になりました。彼は学校の成績が学年でトップでした。私ですか? 全くの逆でしてね(苦笑)」
将棋との出会いは突然やってくる。放課後の教室で親友と担任の教師が盤を挟んでいたのだ。結果的に運命を左右するシーンになる。
「将棋というゲームは知っていましたが、私は金と銀の動き方の区別もつかないような状況でした。だからやってみたかったのに輪に入れなかったんですよ。親友が楽しそうに将棋を指していたので、いつかルールを覚えて彼と指してみたい気持ちがあって」
中学3年の進路指導の面接で担任の教師と進学について話し合ったときのこと。母子家庭で貧しい状況を鑑みて、自宅から近くて学費の安い都立の広尾高校への進学希望を告げた。だが、教師の口から現実を突きつけられてしまう。学年で下位の成績だった森が受かるレベルではなかったのである。
「学費のことを考えると都立高校しか選択肢がなく、新橋の港工業高校を受験することになったんです。笑われるかもしれないけど、将棋を覚える前の夢は四国と本州を結ぶ大きな橋を架けることでした。まだ瀬戸大橋がない時代でしたので、工業高校で学ぶのも悪くはないと考えていたのです」
とはいえ、その高校に入学するのも、当時の森の学力では簡単なことではなかった。中学3年になって初めて勉強らしいことをしたのだと言う。
「本屋に行って過去の入試問題集を買いました。記憶力だけはよかったので過去5年の問題と解答をすべて覚えることにしたのです。意味がよくわからないまま、とにかくひたすら暗記しました。記憶力のよさは棋士になってからも強みになりましたよね」
入学試験の自己採点は900点満点中、驚愕(がく)の800点超え。全受験者で2位、入学者ではトップの成績で余裕の合格だった。
「結果的には広尾高校でも楽に入学できた点数だったんですよね。担任の先生がとにかく驚いていました。なぜ今まで勉強してこなかったんだ、ってね」
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK将棋講座』2021年5月号より

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