藤沢里菜女流立葵杯、「2連勝3連敗」からの成長
- 撮影:小松士郎
女流棋士最年少記録の15歳で初タイトルを獲得し、以来強くなり続けている藤沢里菜(ふじさわ・りな)女流立葵杯。クールな対局姿も朗らかな笑い声も魅力的な若きエースが、今回の「一手」と共に力強い目標も語ってくださいました。
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■「2連勝3連敗」からの成長
今回の一手は、昨年の3月に謝(依旻六段)先生と打った女流名人戦の第3局から選ばせていただきました。
謝先生は、私が入段した11歳のとき、20歳だったのですが、今の自分の年齢より若いということが信じられないほどの貫禄とオーラがある方でした。いつかタイトル戦を打ちたいと思っていたので、初めて実現した女流本因坊戦の挑戦手合は、「やっと打てるんだ!」という気持ちでしたし、印象に残っています。
1、2局に勝って、「あ、これはいけるんじゃないか、みたいな、勝手な油断がありまして(笑)。3局目は、こちらが優勢な碁だったのですけれど、そこからの謝先生の勝負根性のようなものをすごく感じて、時間があるのに焦ってしまい、どんどん流れが悪くなり、結局負けてしまったという碁でした。
当時は17歳だったのですが、気持ちの切り替えが本当に苦手で、逆転負けも結構引きずる性格で、それが最後まで尾を引いてしまいました。謝先生の勝負師のオーラも感じましたし、やっぱり2連勝してからの3連敗だったので、つらかったですね。
最近は囲碁の夢ってあまり見ないんですけど、当時は、毎日そのシリーズの夢で(笑)、3局目の局面まで出てきて、「ああ、あそこに打っていれば!」という瞬間で起きる、みたいな(笑)。プレッシャーというか、タイトル戦を意識していたんだなって思います。
ただ、この悔しい経験がきっかけになって、翌年の対局の中で少し自分の気持ちが変わってきて「負けたことを生かせば、これからの自分の棋士人生にはいい経験になるな」と思えるようになりました。それからは、タイトル戦で負けても、動じないというか、そんなに引きずることはなくなりましたね。「次に生きるから」と、長いスパンで見られるようになりました。やっぱり負けて引きずっていてはもったいないので、気持ちの切り替えですね。それは、自分の対局を重ねる中で、成長していった部分かなと思います。
あの最初に打った17歳のころから、謝先生とは10回近くタイトル戦を戦っているんですけれど、普段の対局とはまた違った先生の勝負強さみたいなものを実感してきて、毎局毎局本当に難しいぎりぎりの勝負ですので、そういった戦いの面も成長したと思いますし、大舞台で戦う気持ちとかも、少しずつ成長できたんじゃないかなと思います。
今回ご紹介する女流名人戦は、1局目が、途中からは完敗という内容でした。三番勝負なので、その時点でカド番ですが、ここは気持ちを切り替えて頑張ろうという思いでした。2局目に逆転勝ちし、少しほっとして、第3局の前の心境としては、自分らしく打とうと、ただそれだけでした。
※続きはテキストでお楽しみください。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
※この記事は3月8日放送の「シリーズ一手を語る 藤沢里菜女流立葵杯」を再構成したものです。
文:高見亮子
■『NHK囲碁講座』連載「シリーズ 一手を語る」2020年7月号より
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■「2連勝3連敗」からの成長
今回の一手は、昨年の3月に謝(依旻六段)先生と打った女流名人戦の第3局から選ばせていただきました。
謝先生は、私が入段した11歳のとき、20歳だったのですが、今の自分の年齢より若いということが信じられないほどの貫禄とオーラがある方でした。いつかタイトル戦を打ちたいと思っていたので、初めて実現した女流本因坊戦の挑戦手合は、「やっと打てるんだ!」という気持ちでしたし、印象に残っています。
1、2局に勝って、「あ、これはいけるんじゃないか、みたいな、勝手な油断がありまして(笑)。3局目は、こちらが優勢な碁だったのですけれど、そこからの謝先生の勝負根性のようなものをすごく感じて、時間があるのに焦ってしまい、どんどん流れが悪くなり、結局負けてしまったという碁でした。
当時は17歳だったのですが、気持ちの切り替えが本当に苦手で、逆転負けも結構引きずる性格で、それが最後まで尾を引いてしまいました。謝先生の勝負師のオーラも感じましたし、やっぱり2連勝してからの3連敗だったので、つらかったですね。
最近は囲碁の夢ってあまり見ないんですけど、当時は、毎日そのシリーズの夢で(笑)、3局目の局面まで出てきて、「ああ、あそこに打っていれば!」という瞬間で起きる、みたいな(笑)。プレッシャーというか、タイトル戦を意識していたんだなって思います。
ただ、この悔しい経験がきっかけになって、翌年の対局の中で少し自分の気持ちが変わってきて「負けたことを生かせば、これからの自分の棋士人生にはいい経験になるな」と思えるようになりました。それからは、タイトル戦で負けても、動じないというか、そんなに引きずることはなくなりましたね。「次に生きるから」と、長いスパンで見られるようになりました。やっぱり負けて引きずっていてはもったいないので、気持ちの切り替えですね。それは、自分の対局を重ねる中で、成長していった部分かなと思います。
あの最初に打った17歳のころから、謝先生とは10回近くタイトル戦を戦っているんですけれど、普段の対局とはまた違った先生の勝負強さみたいなものを実感してきて、毎局毎局本当に難しいぎりぎりの勝負ですので、そういった戦いの面も成長したと思いますし、大舞台で戦う気持ちとかも、少しずつ成長できたんじゃないかなと思います。
今回ご紹介する女流名人戦は、1局目が、途中からは完敗という内容でした。三番勝負なので、その時点でカド番ですが、ここは気持ちを切り替えて頑張ろうという思いでした。2局目に逆転勝ちし、少しほっとして、第3局の前の心境としては、自分らしく打とうと、ただそれだけでした。
※続きはテキストでお楽しみください。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
※この記事は3月8日放送の「シリーズ一手を語る 藤沢里菜女流立葵杯」を再構成したものです。
文:高見亮子
■『NHK囲碁講座』連載「シリーズ 一手を語る」2020年7月号より
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