囲碁界のニューヒロインvs.優勝経験持つ実力者

左/三村智保九段、右/上野愛咲美女流本因坊 撮影:小松士郎
第68回 NHK杯 1回戦 第5局は三村智保(みむら・ともやす)九段(黒)と上野愛咲美(うえの・あさみ)女流本因坊(白)の対局となった。佐野真さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

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ゴルフ界のニューヒロインが渋野日向子なら、囲碁界のニューヒロインは上野愛咲美女流本因坊である。
ともに明朗快活、大胆不敵——勝っても負けても笑顔を絶やさず、勝負度胸も満点だ。
一撃必殺のハードパンチが最大の魅力である点も酷似しており、勝負に没頭している際はもちろん、フィールドを離れてもファンを魅了してくれる存在なのである。
一手30秒、ただし1分の考慮時間が10回という、NHK杯と同じシステムの竜星戦において昨年、高尾紳路九段、村川大介十段、許家元八段という超一流棋士を連破し準優勝した上野は、井山裕太NHK杯や芝野虎丸名人を差し置いて、今期NHK杯における最注目棋士と言ってもいいだろう。
迎えた初戦の相手は三村智保(みむら・ともやす)九段。第50回トーナメントの優勝者で、三大棋戦のリーグ戦で多くの活躍実績のある実力者だ。本棋戦の出場が23回目という数字が、長年にわたる安定した成績を証明している。
両者は初対戦だが、上野の豪腕を恐れて手が縮むような三村ではないだけに、真っ向勝負の激戦も予想された。そして実際、雄大な構想や洗練された手筋が随所に出現した、視聴者をくぎづけにする好局となったのである。
なお本局の放映時解説者は、青木喜久代八段。女流の解説者は昨年の吉田美香八段以降で3人目となったが、歯切れのよい語り口で視聴者が知りたいことに手が届いた、明解な仕事ぶりであったと思う。



■力ずくで開戦

白12、14のツケ二段から白20までは大流行中の定石。ここで手を抜いて他の大場に向かうことも考えられたが、三村はさらに黒21と押していった。「三村さんはこういう重厚な運びが好きなんですよね」と青木八段。対して白が26のハネなら、黒29とハネ返して右辺の模様を拡大しにいくか、1図の黒1と切って上辺を荒らしにいくかの選択肢がある。


そして上野は、右辺の模様を拡大されることを嫌ったのだろう。上辺を応じずに白22と右辺を割った。黒23とタタかれるのは部分的に痛いが、白24と甘受し、2図の黒1から5なら白6と二間ジマリの腹中にツケていくのが、△(白)と関連した有力な後続手段となる。そこで今度は三村が上辺を放置し、右下を黒25とトンで二間ジマリを補強した。となれば上野が白26と上辺を打ったのは気合いというもので、このあたりはともに「相手が打ってこなかった所を打つ」という応酬だ。


※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2020年7月号より

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