ベテランファイターvs. 昇竜

左/安達利昌七段、右/秋山次郎九段 撮影:小松士郎
第68回NHK 杯が開幕した。1回戦第1局は安達利昌(あだち・としまさ)七段(黒)と秋山次郎(あきやま・じろう)九段(白)の対局となった。佐野真さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

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第68回NHK杯戦の開幕を飾るのは、実力者の形容がぴったりの秋山次郎九段と、この2年ほどで一流棋士への飛躍を果たした安達利昌七段の顔合わせだ。
アマ強豪の菊池康郎氏が主宰する緑星囲碁学園出身の大器としてデビューした秋山も、気が付けば42歳。今やベテランと呼ばれる年齢になった。2013年には天元戦で挑戦者となった実績(井山裕太天元に0勝3敗でタイトル奪取はならず)が光り、妥協なく最強手を繰り出していくパワーは破壊力満点。本局解説者の片岡聡九段は「スケールの大きいファイター」と評していた。
NHK杯出場2度目の安達は昨年、棋聖戦Bリーグで2位の6勝1敗と好成績を残し、今期は上から2番目のAリーグで戦っている。他棋戦の予選も軒並み勝ち上がる活躍ぶりで、今や「本戦の常連」という地位を築いた。29歳とまだまだ若いので、さらなる上昇の余地も十分だ。片岡九段によれば「秋山さんと同じく力強い棋風だが、独特の感性があって面白い碁を打ちます」とのことである。
両者は過去に3度の対戦があり、すべて秋山が勝利。しかしそれは安達が本格化する前の話なので、この対戦成績は参考外と見るべきであろう。

 



■まずは秋山が一本

黒25は一間で狭いが、白Aからの攻めを防いで見た目以上の好点。そして黒27の四線ツメが有力な後続手段で、AIによると「ここが適切」なのだという。次に黒50が気持ちのよい一手となるので、白28のスベリはこんなもの。黒は27と白28の交換を利かしと見るということだ。白30、32と右下隅に手を付けていった。二間ジマリは地に甘い構えなので簡単に手になるが、黒33に対しては注意が必要。うっかり1図の白1とツナぐと、黒2のサガリで窮してしまう。白aは黒bとハネられ二眼のスペースがなくなり、白c、黒d、白eとハネツぐのも、黒には△(黒地に白△)の援軍があるので「黒aと取りにこられて、白はシノギに自信が持てません」と片岡九段。従って実戦の秋山は白34、36とハネカケツいだ。


ここで安達は黒37とアテたのだが、局後の本人は「まずい手でした」と深く反省。2図の黒1、3と眼を奪うべきで、白は4とツケてaの切りを狙ってくる。このあと黒の対応が難しいが「実戦はひどすぎたので、こう打つよりありませんでした」と安達。

 


その「ひどすぎた実戦」の進行が白40から48まで。白には40と46という二つの適切なコウダテがあるが、黒には43の一つのみで、ここで黒にぴったりしたコウダテがないのである。やむなく黒49とフクラんだが、これは白50と換わったことで黒Bとツケる狙いを消してしまい、相当な悪手。そして白52に黒Cと受けるとコウを取り返され、今度こそ本当にコウダテがないので、黒53と解消するよりない。白54と右上隅に入り込まれたのは、かなりの痛手であった。
とはいえ右下隅を見れば、白も持ち込んで黒地を確定させてしまっているので、右上隅とは痛み分けと言えそうだ。黒49、白50の交換を打たされた分だけ、黒が割を食ったと見るべきだろう。この点については局後の秋山も同様の感想で「悪くはないと思った」という主旨の発言をしている。白54に続いて黒Dと上辺を備えていれば堅実だったが、相手に響く手ではない。しくじったと感じている安達としては、そんな悠長な手など打てるはずがない。黒55と左辺に打ち込み、局面を複雑化させにいったのは当然の方針だろう。
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK 囲碁講座』2020年6月号より

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