木村一基王位 vs. 渡辺明三冠 タイトルホルダー同士の熱戦

左/木村一基王位、右/渡辺 明三冠 撮影:河井邦彦
第69回NHK杯3回戦第5局は、木村一基(きむら・かずき)王位と渡辺 明(わたなべ・あきら)三冠の対局となった。森充弘さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。



* * *


■時代

「皆さん、藤井聡太君がいる方向にスマホを向けていて、私たちには向いていないんですよ」
対局前の控え室、木村が甲府市で行われた将棋の日のイベントの様子について話し、皆を笑わせている。このイベントに一緒に出ていた渡辺も笑っている。
なごやかな雰囲気の控え室だったが、たびたび沈黙の時間が訪れる。勝負の前の常とはいえ、そのたびに緊張感が高まる。
渡辺と木村、二人はこの1年、順位戦A級に復帰するとともに、渡辺は王将と棋聖を奪取し、日本シリーズを連覇、木村は初タイトルである王位を獲得するという大活躍をしている。
本誌11月号「平成の勝負師たち」で片山良三さんが書かれているように、渡辺はAIの考え方をとことん理解しようというアプローチで、玉の堅さよりもバランスを重視する将棋にフォームを改造した。その成果が前期より出ているわけであるが、木村は昔から玉の薄いバランス重視型の将棋。片山さんによる別のインタビューで渡辺は「時代が木村さんにすり寄ってきたということです」と語っている。まさに至言だ。



■作戦負け

本局の戦型は、玉形が薄くバランスが重視される将棋の代表格である相掛かりとなった。
△3四歩(2図)は、▲2五銀~▲2四歩の2筋突破を防ぐ手だが、ここではすでに後手が作戦負けだという。


「△8六歩(1図)が作戦負けを招いたか。先に切ったので味消しになっている。先手の銀が3六に上がったタイミングがよかった。(角道を) 開けるぐらいになったら作戦負けですね。いやあ痛いです、いやあつらいです」と渡辺は感想戦で述べていたが、後日、渡辺は「実際は△8六歩と切らなければ先手が▲7七角と受けるでしょうし、本譜が作戦負けなので、それの言い訳のような感想でしたね。事前準備が足りなかったと思います」と振り返っている。
一方、▲3四銀で歩得となった木村は「歩を取れたぐらいでは手が詰まりますからね。こちらもそんなに得をした感じではないです。3四の銀が働くかどうか苦心することになります」と話しており、双方にそれぞれ難しさがあるようだ。
▲3六歩(3図)では▲5六角も考えられるが、△5四歩▲2三銀成△同銀▲同角成△2七歩▲同飛△4九角▲2六飛△2三金▲同飛成△5八角成▲同玉△1四角で、先手が面白くない。


「こちらはジリ貧模様なので、何もせずに銀を引かれても悪いです」(渡辺)
後手は2二の銀を活用できないのが泣きどころ。▲3八飛に対し△3三歩と受けるような手は、自ら2二の銀を閉じ込めることになるので得策ではない。
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2020年3月号より

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