井山裕太棋聖の今期NHK杯初戦はいかに
- 撮影:小松士郎
第67回 NHK杯 2回戦 第6局は、鶴山淳志(つるやま・あつし)七段(黒)と井山裕太(いやま・ゆうた)棋聖(白)の対局となった。佐野真さんの観戦記から、序盤の棋譜と展開を紹介する。
* * *
■大本命・井山の今期初戦
昨年の夏に碁聖を、秋に名人を相次いで奪われ、今年の春には十段を失冠した井山裕太四冠。1年半ほど前には全七冠保持を誇っただけに、どうしても勢いが薄れたかのように映ってしまう。
5月に開幕した本因坊戦七番勝負でも、挑戦者の河野臨九段に2連敗スタート。さらなる失冠かと思われたが、そこから4連勝で防衛を果たしたのはさすがのふんばり。まだまだ第一人者の地位は不動である。
NHK杯でも直近3回で優勝、優勝、準優勝という活躍ぶり。当然のごとく優勝候補の筆頭として今期初戦、初の2回戦進出となった鶴山淳志七段との一戦に臨んだ。井山の白番。
黒13の三々入りに対しては白19、黒14、白16が一つの型だが、白14とこちらをオサえて、黒15に白16と切るのが最近の流行。黒17、19に白20とシチョウにカカえる。
黒21の切りで白二子は取られるが、白22から26、28という隅への味付けが残っている点が自慢である。黒29のカカエと換わることで、のちに白Aのハネが利くこととなった。黒29でBなら白Cとマクって黒Dと換わり、やはり白AのハネがEのコウを見て利く。
白30とハサんで黒31の三々入りを誘い、白32から36まで勢力を築いた。左辺の模様で勝負という方針だ。
■双方ユルまず、大コウ勃発!
入段時と変わらぬ若い風貌を保ち続けている鶴山だが、驚いたことに38歳。ベテランと呼ばれる年齢に差しかかってきた。
23歳時の2004年、全棋士の中で勝率第一位賞を獲得するなど、その力強い棋風は高く評価されているが、タイトルには手が届いていない。昨今の平成四天王(張栩、羽根直樹、山下敬吾、高尾紳路)の活躍が証明しているように、40歳前後になっても棋士の力量は衰えない。鶴山には不惑前の覚醒・躍進を期待したいものである。
黒37のツケに白38とハネ込んで白48まで。続いて形としては1図、黒1のハネだが「白2の切りを入れて白4と抜かれると、白2の一子を取ることができず分断されてしまいます」と解説の山田規三生九段。上辺や中央が白の勢力圏なので、分断されると黒が苦しい。同様の理由により黒1で3のノビも、白2と切られてしまう。ゆえに鶴山は黒49とカケツいで辛抱し、白52のノビを許したのである。
黒53と右辺を構えたとき、すぐさま白54と打ち込んでいったのが、井山らしい積極策。黒55、57のツケノビに対し、白は58、60と頭を出す。黒61のアテには白62と、コウにハジいた。
右上の黒一団が弱くなっているため、鶴山は黒67と補強したが、井山は白68と切ってコウを拡大――白70や76などのコウダテがあることを見越している。
黒79のときに2図の白1と解消してしまう選択肢はあった。しかし黒2で上下を握手させてしまう点が不満と言えば不満。井山は白80と応じてコウを継続――コウダテはまだ下辺に白82がある。
さて白84のあと、鶴山の対策はいかに?
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2019年11月号より
* * *
■大本命・井山の今期初戦
昨年の夏に碁聖を、秋に名人を相次いで奪われ、今年の春には十段を失冠した井山裕太四冠。1年半ほど前には全七冠保持を誇っただけに、どうしても勢いが薄れたかのように映ってしまう。
5月に開幕した本因坊戦七番勝負でも、挑戦者の河野臨九段に2連敗スタート。さらなる失冠かと思われたが、そこから4連勝で防衛を果たしたのはさすがのふんばり。まだまだ第一人者の地位は不動である。
NHK杯でも直近3回で優勝、優勝、準優勝という活躍ぶり。当然のごとく優勝候補の筆頭として今期初戦、初の2回戦進出となった鶴山淳志七段との一戦に臨んだ。井山の白番。
黒13の三々入りに対しては白19、黒14、白16が一つの型だが、白14とこちらをオサえて、黒15に白16と切るのが最近の流行。黒17、19に白20とシチョウにカカえる。
黒21の切りで白二子は取られるが、白22から26、28という隅への味付けが残っている点が自慢である。黒29のカカエと換わることで、のちに白Aのハネが利くこととなった。黒29でBなら白Cとマクって黒Dと換わり、やはり白AのハネがEのコウを見て利く。
白30とハサんで黒31の三々入りを誘い、白32から36まで勢力を築いた。左辺の模様で勝負という方針だ。
■双方ユルまず、大コウ勃発!
入段時と変わらぬ若い風貌を保ち続けている鶴山だが、驚いたことに38歳。ベテランと呼ばれる年齢に差しかかってきた。
23歳時の2004年、全棋士の中で勝率第一位賞を獲得するなど、その力強い棋風は高く評価されているが、タイトルには手が届いていない。昨今の平成四天王(張栩、羽根直樹、山下敬吾、高尾紳路)の活躍が証明しているように、40歳前後になっても棋士の力量は衰えない。鶴山には不惑前の覚醒・躍進を期待したいものである。
黒37のツケに白38とハネ込んで白48まで。続いて形としては1図、黒1のハネだが「白2の切りを入れて白4と抜かれると、白2の一子を取ることができず分断されてしまいます」と解説の山田規三生九段。上辺や中央が白の勢力圏なので、分断されると黒が苦しい。同様の理由により黒1で3のノビも、白2と切られてしまう。ゆえに鶴山は黒49とカケツいで辛抱し、白52のノビを許したのである。
黒53と右辺を構えたとき、すぐさま白54と打ち込んでいったのが、井山らしい積極策。黒55、57のツケノビに対し、白は58、60と頭を出す。黒61のアテには白62と、コウにハジいた。
右上の黒一団が弱くなっているため、鶴山は黒67と補強したが、井山は白68と切ってコウを拡大――白70や76などのコウダテがあることを見越している。
黒79のときに2図の白1と解消してしまう選択肢はあった。しかし黒2で上下を握手させてしまう点が不満と言えば不満。井山は白80と応じてコウを継続――コウダテはまだ下辺に白82がある。
さて白84のあと、鶴山の対策はいかに?
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2019年11月号より
- 『NHKテキスト囲碁講座 2019年 11 月号 [雑誌]』
- NHK出版
- >> Amazon.co.jp
- >> HMV&BOOKS