「貴船」から水流に乗って都にやってくる鬼たち

貴船から南へ8kmほどのところにある深泥池は、氷河期からの動植物群が生息し、国の天然記念物に指定されている。泥が堆積しているため、足を踏み入れると抜け出せない。この池の近くからタクシーが女性客を乗せたが、いつの間にか姿が見えず、シートがぬれていた、などの都市伝説も。撮影:森山雅智
鬼は姿が見えないことから「隠(おぬ)」と呼ばれ、その言葉がなまって伝わり、「オニ」になったといわれています。ところが、京都では鬼がたびたび人前に現れ、事件を起こしているのです。鬼門を封じたはずの都に、どこから鬼はやって来るのでしょうか。京の北に位置する貴船(きぶね)には、かつて鬼の国があったとか。水流に乗って都に出没する鬼とは!? 京都先端科学大学人文学部教授の佐々木高弘(ささき・たかひろ)さんにお話を聞きました。

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貴船神社は賀茂川の水源地の1つにあたっています。水の神様であるタカオカミが祀られ、平安時代初期には朝廷が雨乞いをするところでもありました。その一方で、賀茂川流域一帯を支配する土地の神(地主神)としての性格も持っていました。つまり、平安京がつくられる前から鎮座していた神でもあったのです。それだけに、新しい都が造営され、朝廷の権威によって荒振(あらぶ)る力を押さえ込まれてしまった神は、慎重に扱わないと祟(たた)りを起こすと思われていたようです。
支配地の都を奪い返すことをもくろんでいたのでしょうか、先住民の水の神は、貴船から水路を伝って都を目指し、一条戻橋の下に渦巻く水流から、平安京へと躍り出ていたのです。


大正(たいしょう)期までの京都の伝承を集めた『京都民俗志(きょうとみんぞくし)』に、貴船にまつわる鬼の話が書かれています。
都に鬼が出現して困っていたところ、鬼同士の会話を聞いた人がいました。その話によると、鬼たちは貴船の奥にある谷に棲(す)んでいて、地下道を通って深泥池(みどろがいけ)の湖畔まで行き、そこから地上に這い上がって都に現れるというのです。地下道とありますが、もしかしたら地下水路のことかもしれません。
そこで、鬼の最も嫌う豆を鬼が出てくる穴に投げてふさいだところ、鬼が出没しなくなりました。それから京都では毎年節分にいり豆を同所に捨てに行く習慣が生まれ、その場所を豆塚と呼びました。この風習は現在は廃れてしまいましたが、鬼たちを鎮めるために祭りを行ったのが、貴船神社だったともいわれています。
■『NHK趣味どきっ! 京都・江戸 魔界めぐり』より

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