自国の文化の行き詰まりは異文化で洗う……辰巳芳子さんの食の考え方

撮影・小林庸浩
料理研究家・辰巳芳子(たつみ・よしこ)さんの連載「ご飯と汁物」。食に対する向き合い方を、食事の基本であるご飯と汁物を通して語ります。2019年6月号では、梅干し入りご飯とえんどうのけんちん汁をつくっていただきました。

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6月は梅の季節ですね。梅干しは、日本人にとって欠かせない大切な食べ物です。食べ物が腐りやすい梅雨の時期、その防腐作用を頼って、ご飯や料理に炊き込みます。

常日頃から梅干しを炊き込む必要はないでしょうが、災害時におむすびを提供するときにご飯が傷みません。食べてもいい防腐剤なんてほかにあまりないですよ。ちなみに、手づくりの3年物の梅干しは宝物です。塩の角が取れてまろやかになり、食べやすくなっています。1年で食べきる量よりやや多めに漬けることをおすすめします。
梅干しのみならず梅酢にも抗菌力があります。通常、おむすびの中に梅干しを入れますが、常々疑問に思っていました。外から守らなければ効果がないのではと。だから、梅酢なら手に塗っておむすびをにぎれば、外側からの防腐が期待できると思います。
そして汁物は、えんどうを「蒸らし炒め」にするけんちん汁です。蒸らし炒めとは、厚手の鍋に少量の油を入れ、ふたを用いつつ、野菜に汗をかかせ、素材の持ち味を引き出す手法です。えんどうの青くささは蒸らし炒めで取り除けます。ぜひ試してください。
今回は汁物に欠かせない「煮干しだし」をご紹介します。煮干しの頭から骨まで粉にし、うまみと栄養を最大限に引き出しました。日本人は骨から栄養を賢く、徹底的にいただくことに慣れていません。

魚のアラでだしをとるフランスのフュメ・ド・ポワソンなど、骨までスープに使う点ではヨーロッパの人々のほうが優れています。ですからその知恵を活用しました。煮干しは、いって保存性を高めて瓶などに入れておきましょう。自分の国の文化の行き詰まりは、異文化で洗うとよいでしょう。料理をやっていて、つくづくそう思いますね。
※煮干しだしのとり方、梅干し入りご飯とえんどうのけんちん汁のつくり方はテキストで詳しく紹介しています。
■『NHKきょうの料理ビギナーズ』2019年6月号より

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