趙治勲名誉名人、仲邑菫初段がうらやましくてたまらない理由

イラスト:山元かえ
4月にスタートした連載「趙治勲名誉名人のどうでもいい碁の話」。5月号では囲碁界のホットトピック、仲邑菫(なかむら・すみれ)新初段を取り上げます。

* * *

仲邑菫ちゃん、かわいいねえ。皆さんもそう思うでしょ? 今回は彼女を取り上げるしかなさそうだね。
インターネットのニュースで知りました。4月1日付で棋士としてデビューです。お父さんは仲邑信也九段、お母さんは囲碁インストラクターの幸さん。どっちに似たんだろうね、あのかわいさは。絶対にお母さんか(笑)。
なんと史上最年少の入段。10歳0か月と聞きました(デビュー時)。ただ、入段までのスタイルがこれまでとはちょっと違います。新設された、「英才特別採用推薦棋士」の第1号。高校や大学の推薦入試みたいなものかな? 昨年、副理事長になった小林覚九段の肝煎り政策で、世界で戦える棋士を育てるのが目的です。
覚さんの奮闘というか、棋院を改革したいという情熱は伝わってきていました。で、井山裕太(五冠)さんとの記念対局があるっていうからネットで観戦していたんだけど、いやー、驚きましたよ。
お世辞じゃありません。あの碁はすばらしい内容でした。もちろん井山じゃないよ、菫ちゃん! 途中では押していたもの。最後は逆転されちゃったけど、9歳であの打ちぶりはお見事です。
菫ちゃんはプロ入り前にもかかわらず、大変な仕事をやり遂げました。彼女が尊敬する井山五冠にあの内容なら、自信になったに違いありません。そしてもう一つ、大きな意味がありました。
彼女は覚さんを救いました。新しいシステムを作る際には、反対意見があるものです。これはどんな世界でも一緒だよね。もし菫ちゃんが井山に、同じ負けるにしても内容を伴っていなかったら…。恐らく、覚さんへの非難が出てきたはずです。それを9歳の女の子が打ち消した。きれいさっぱりにね。あの碁を見せられたら誰も文句は言えません。覚さんの目が正しいことを証明しました。
菫ちゃんは輝く星の下に生まれたようです。ご両親の愛情をたっぷり受けてすくすく育ち、普通の子どもよりも早く一人で切り開く人生を、棋士としてのスタートを切ることになった。そして初仕事と言っていい井山との記念対局で、覚さんに恩返し。強さと強運を兼ね備え、スタートダッシュを決めました。うらやましくてたまらないです。ぼくは人の役に立ったことは一度もないから(笑)。
※後半はテキストでお楽しみください。
■『NHK囲碁講座』2019年5月号より

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