井山裕太NHK杯vs.一力遼八段の頂上決戦
- 左/井山裕太 NHK杯、右/一力 遼八段 撮影:小松士郎
第66回NHK杯決勝戦は、井山裕太(いやま・ゆうた)NHK杯選手権者と、一力 遼(いちりき・りょう)八段の対局となった。佐野 真さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。
* * *
いよいよ決勝戦。井山裕太NHK杯vs.一力遼八段という顔合わせは「本命と対抗の両者が勝ち上がってきた」との印象だ。
3連覇を狙う井山。各タイトル戦の合間を縫って国際棋戦を戦い、取材やイベントもこなすハードスケジュールに追われ、また昨年の夏から秋にかけて七冠のうち二冠を失う不調期に見舞われながらも、決勝にまで駒を進めてきた。ファンの注目度が極めて高いNHK杯を制することで、改めて第一人者であることの証明を果たしたい。
初優勝を目指す一力は、これが3度目の決勝進出である。過去2回は伊田篤史八段と井山に敗れ、涙をのんだ。一時期、井山に対して全く歯が立たない期間があった(なんと13連敗)が、直近6戦では3勝3敗。マイナスイメージはかなり払拭できているか。
この二人の対戦はほぼ例外なく、力勝負のねじり合いとなる。全24局に及ぶ過去の対戦(井山の18勝6敗)で、作り碁になったのが僅か3度という数字がその証明だ。一手30秒の早碁となれば、激戦となる可能性は百パーセントというべきだろう。
解説の趙治勲名誉名人も対局前、両者の力戦家ぶりに言及し「どちらかがツブれて終わる碁になるでしょう」と語った。
■最新流行型でスタート
井山がタイトル戦線に登場したのが2008年、名人戦で挑戦者となり「19歳の名人が誕生か」と騒がれたときなので、かれこれ10年以上も前のこととなる。翌年に名人を獲得し、第一人者の道を歩み始めたのだが、NHK杯ではなかなか戴冠(たいかん)できない状況が続いた。
10年と13年こそ決勝進出を果たしたものの、いずれも結城聡九段に敗退。それ以外の年はベスト8止まりのことが多かったのである。
これを受けて「早碁があまり得意ではないのか」との憶測が飛んだが、17年の前々期に三度目の正直で初優勝を果たすと、返す刀で前期も連覇。そして今期も決勝進出ということで、以前に結果が出ていなかったのは単なる巡り合わせでしかなく「やっぱり早碁でも強かった」となったのである。
3連覇が懸かった本局は井山の先番。黒1、3の両小目から黒5と二間にシマった。
プロの間では現在、この二間ジマリが大流行であるが、では従来の小ゲイマや一間ジマリはなぜ打たれなくなってきたのか?
背景にはやはりAI(人工知能)の影響があり、今では「小ゲイマや一間ジマリは幅が狭くて凝り形にされる」と考えられている。
1図、黒1の小ゲイマジマリなら白2のツケや白aの肩ツキがその具体例で、2図、黒1の一間ジマリなら白2のツケ─―このようにアプローチされると、このあと黒がどう応じても「石が重複していまひとつ」との見解が支配的となった。小ゲイマや一間ジマリがこのような評価をされる日が来ようとは、つい2年ほど前には想像もつかなかったが…。
小ゲイマや一間よりも幅があるシマリなら、ツケなどでアプローチされても凝り形にされることはないという理由で、現在は二間や大ゲイマジマリのほうが、すっかり主流になったのである。
黒7のケイマもAI手法。昔からある手だが、AIが多用したことで再注目されるようになった。黒Aなどのハサミだと「白Bとカケられて不満」との見解に基づいている。
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2019年5月号より
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いよいよ決勝戦。井山裕太NHK杯vs.一力遼八段という顔合わせは「本命と対抗の両者が勝ち上がってきた」との印象だ。
3連覇を狙う井山。各タイトル戦の合間を縫って国際棋戦を戦い、取材やイベントもこなすハードスケジュールに追われ、また昨年の夏から秋にかけて七冠のうち二冠を失う不調期に見舞われながらも、決勝にまで駒を進めてきた。ファンの注目度が極めて高いNHK杯を制することで、改めて第一人者であることの証明を果たしたい。
初優勝を目指す一力は、これが3度目の決勝進出である。過去2回は伊田篤史八段と井山に敗れ、涙をのんだ。一時期、井山に対して全く歯が立たない期間があった(なんと13連敗)が、直近6戦では3勝3敗。マイナスイメージはかなり払拭できているか。
この二人の対戦はほぼ例外なく、力勝負のねじり合いとなる。全24局に及ぶ過去の対戦(井山の18勝6敗)で、作り碁になったのが僅か3度という数字がその証明だ。一手30秒の早碁となれば、激戦となる可能性は百パーセントというべきだろう。
解説の趙治勲名誉名人も対局前、両者の力戦家ぶりに言及し「どちらかがツブれて終わる碁になるでしょう」と語った。
■最新流行型でスタート
井山がタイトル戦線に登場したのが2008年、名人戦で挑戦者となり「19歳の名人が誕生か」と騒がれたときなので、かれこれ10年以上も前のこととなる。翌年に名人を獲得し、第一人者の道を歩み始めたのだが、NHK杯ではなかなか戴冠(たいかん)できない状況が続いた。
10年と13年こそ決勝進出を果たしたものの、いずれも結城聡九段に敗退。それ以外の年はベスト8止まりのことが多かったのである。
これを受けて「早碁があまり得意ではないのか」との憶測が飛んだが、17年の前々期に三度目の正直で初優勝を果たすと、返す刀で前期も連覇。そして今期も決勝進出ということで、以前に結果が出ていなかったのは単なる巡り合わせでしかなく「やっぱり早碁でも強かった」となったのである。
3連覇が懸かった本局は井山の先番。黒1、3の両小目から黒5と二間にシマった。
プロの間では現在、この二間ジマリが大流行であるが、では従来の小ゲイマや一間ジマリはなぜ打たれなくなってきたのか?
背景にはやはりAI(人工知能)の影響があり、今では「小ゲイマや一間ジマリは幅が狭くて凝り形にされる」と考えられている。
1図、黒1の小ゲイマジマリなら白2のツケや白aの肩ツキがその具体例で、2図、黒1の一間ジマリなら白2のツケ─―このようにアプローチされると、このあと黒がどう応じても「石が重複していまひとつ」との見解が支配的となった。小ゲイマや一間ジマリがこのような評価をされる日が来ようとは、つい2年ほど前には想像もつかなかったが…。
小ゲイマや一間よりも幅があるシマリなら、ツケなどでアプローチされても凝り形にされることはないという理由で、現在は二間や大ゲイマジマリのほうが、すっかり主流になったのである。
黒7のケイマもAI手法。昔からある手だが、AIが多用したことで再注目されるようになった。黒Aなどのハサミだと「白Bとカケられて不満」との見解に基づいている。
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2019年5月号より
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