小林覚九段と高尾紳路九段、ぎりぎりの競り合い

左/高尾紳路九段、右/小林 覚九段 撮影:小松士郎
第66回NHK杯2回戦 第15局は高尾紳路(たかお・しんじ)九段(黒)と、小林 覚(こばやし・さとる)九段の対局となった。高見亮子さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。

* * *


■捨て石に次ぐ、捨て石

小林覚九段は、AI(人工知能)が登場した際「僕より二子強い」といち早く実力を見抜き、「先生が現れてくれたと喜んで勉強した」と語る。2018年6月からは日本棋院の副理事長に就任し、多忙な公務をこなしながらも第一線で活躍を続けている。
3年前、高尾紳路九段が井山裕太七冠(当時)から名人位を奪還した際、張栩新名人は「高尾さんに負けられない」と語った。高尾は2017年名人位を奪い返されて以降「AIとどう向き合うか模索中」と語り絶好調とは言えないが、台頭する若手陣の大きな壁となる存在であることは変わらない。
解説の羽根直樹九段は「お二人とも手厚く、捨て石も巧みでバランス感覚に優れている。自然な流れを堪能していただける一局になるのではないか」と期待した。その言葉どおり、互いに石を捨てながら盤上の景色は次々と大きく変化していった。そして、その都度の判断が問われる一局となった。

■白模様から黒模様へ


黒5のとき、小林がはやばやと考慮時間を使った。「どんな碁を打ってみようかな、と考えておられる」と羽根九段。楽しんでいる時間だと言う。その構想は、上辺で黒を三線に追いやって厚みを築き、白20まで左辺一帯を広げようというものだった。
黒21は高尾らしい早めの仕掛け。羽根九段は「自分なら、定石の途中になっている右上の黒Aも気になるところ」と言う。
白28で1図の白1のハネは、白9まで形はしっかりするが、ハザマを残す。実戦は「止めることを重視した手」(羽根九段)だ。

黒33も早めの打ち込みで「白28が薄い手ではないですか?」と高尾は下側に寄せた。そして、左辺は捨てて黒45から47と連打。「左辺の黒が逃げれば白地が減ると考えがちですが、白地が増えても黒地も増えればかまわないという発想です」と羽根九段が解説する。
小林は白54と手厚く取り切り、黒55まで黒模様が出現した。
白56と右下の白一子から動き出して下辺との連絡も見たが、黒61から分断にいき、盤上は険しくなってきた。白66では2図の白1が強い態度だが、白9以降は難解。実戦は黒69で白が分断された。

※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書・年齢はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2019年2月号より

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