「勝負への執念は昔よりある」 山崎隆之NHK杯選手権者インタビュー

2度目のNHK杯を抱えて 撮影:河井邦彦
第67回NHK杯テレビ将棋トーナメントを制した山崎隆之八段。
――おめでとうございます。今期を振り返ってください。
山崎 トーナメント表を見て唖然(あぜん)としましたね。中村太地王座と羽生善治竜王が相手だったので、今期も短い命を覚悟しました。
1回戦は決勝戦と思い、和服で臨みました。実は終局後に知恵熱が出て、寝込んだのです。初めての経験でした。初戦をそれほどの集中力と緊張感で戦ったので、次の羽生戦も決勝戦だと気合いが入りました。
――若手強豪の青嶋未来五段と、3回戦でぶつかりました。
山崎 羽生戦で張り詰めていたものは消えましたが、タイトルホルダーに勝ってすぐ負けるのは切ないので、気持ちを入れ直しました。
――準々決勝は昨年の棋聖戦挑戦者、斎藤慎太郎七段です。
山崎 歯車がかみ合わない時期でしたが、対局中に後悔をリセットできたのは成長できた気がします。
――準決勝は2013年度に優勝した郷田真隆九段でした。
山崎 ここでようやく、決勝に残りたいと欲が出ました。
――決勝戦は昨年の名人戦挑戦者、稲葉陽八段とです。
山崎 13年前の決勝戦は、勢いで上を目指し、勝ち負けを問わずにトップにぶつかっていけました。今は中堅で、優勝と準優勝の差は大きいと身に刻まれています。近年はチャンスさえなかったので、今回が最後かもと結果を重視しました。望みがかなって、よかったです。
ここ数年、公式戦で力戦が増えています。そのおかげで、2017年度に早指し棋戦で2回優勝できたのでしょう。もともと、乱戦志向なのが幸いしました。ただ、自分と似た将棋が増えると、存在感をどう出すかが難しいので、複雑な気持ちです。
――自由奔放な山崎将棋ですが、羽生戦の観戦記に、空中分解しないよう、しっかり陣形を組んだとありました。
山崎 ようやく衰えを認めました。脳内盤の駒が空中を滑るように飛んでいたのが、いまは一手一手、パチパチとしか動きません。それでも戦えているのは、考えや戦い方が変わったからでしょう。残された時間が少ないからこそ、勝負への執念は昔よりあります。若手時代は、振り駒が終わってから作戦を考えていたけど、いまはあらかじめ戦略を練っています。以前は将棋に強いほうが勝負に勝つ、勝負と将棋の力はひとつのものと思っていました。現在はそれを分けて、要素を組み合わせて考えています。とにかく、持っている武器を使うしかない。それは小細工でカッコ悪いと思っていたけど、余裕はもうないです。
――数年前に結婚されて、お子さんも生まれました。
山崎 家族や親戚に対局を見てもらえるのは励みになります。昔は「頑張って」と言われるのが苦手でした。勝負は自分しだいで、混じりっけのないもの。他人が入ってきて、人間の情に左右され、いびつにされるのが嫌だったのです。
今は、応援されると素直にうれしいです。純粋なものは懐かしいけど、それではもう戦えない。つぎはぎでいいです。その代わり、つらいことをモチベーションに変えるとか、幅が広がりました。
競争が激化していますが、NHK杯選手権者として存在感を示したい。よい将棋を指せたときの反響が、棋士としてかけがえのない喜びです。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2018年5月号より

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