木村一基九段と行方尚史八段 仲良し同級生の目隠し将棋

撮影:後藤元気
観戦記者の後藤元気さんの連載コラム「渋谷系日誌」は、棋士の皆さんの素顔が垣間見られると人気を博しています。2月号では、2つのお祝いの会での様子が綴られています。

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先日、お祝いの会が2日続いたことがありました。僕は「めでたいことはよいことだ」がモットーなので、お誘いをいただくと何も考えずにホイホイと出かけてしまいます。
1日目は「森雞二九段のプロ棋士五十年を祝う会」。こちらは渋谷区の日本青年館で行われました。
日本青年館は昨年の8月に移転・建て替えが完了したばかり。建物前の信号で顔を合わせた森内俊之九段があらぬ方向に歩いていこうとするので声をかけると、どうやら以前の場所に向かおうとしていた様子。まっさら新しいビルを見上げて、「まさか、これですか。ひええ」とポツリ。9階建てから16階建てにジャンプアップだから、そりゃ驚きますよね。
会には各界の著名人もたくさん出席していました。壇上であいさつをした作曲家のすぎやまこういちさんは86歳ながら大変お元気で、カジノ好きで有名な森九段のカジノの師匠だそうです。
1978年の名人戦で中原誠名人に挑んだ森九段。剃髪(ていはつ)し、必勝を期して臨んだ七番勝負でしたが、結果は2勝4敗の惜敗。失意の森九段を気分転換にとカジノに誘ったというのが最初だったとのこと。すぎやまさんが「2人でラスベガスに行って、どちらも勝ったことがない」と話すと、森九段は横から「ふっふっふ。僕はありますよ」と茶々(ちゃちゃ)を入れる。仲のよい師弟ですね。
森九段の将棋の師匠は、故・大友昇九段。弟弟子の郷田真隆九段が右に左にと裏方として走り回っている姿を見て、将棋界の伝統はよいものだなぁと胸が熱くなりました。
2日目は墨田区の両国で行われた「木村一基九段昇段記念祝賀会」。九段昇段は八段昇段から250勝という規定になっており、その250勝目がNHK杯戦の川上猛七段戦でした。
対局が終わったあとに解説を務めた行方尚史八段、観戦記を担当した君島俊介さんと4人でお祝いを兼ねて飲みに行ったのですが、行方さんはずっと「八段になったのは一緒だったのに、木村が先に九段になるなんて……俺は認めないんだからね」とか言っています。同年生まれの2人は子どものころからこういうこと言い合ってきたんだろうなと、妙にほっこりしたものです。
行方さんはもちろん両国の祝賀会にも参加。アトラクションの目隠し将棋で木村さんと対戦しました。目隠し将棋というのは、実際の盤や駒を使わずに口頭で符号を言い合って指す将棋のことです。
行方さんは周囲に勧められるままにたくさんのお酒を召され、対局が始まるころには、ほどよい塩梅(あんばい)に。もしかしたらオラたちの先生を勝たせたいという木村ファンの皆さんの策略だったのかもしれません。
せっかくなのでそのときの写真を載せておきましょう。中央が読み上げ係を務めた木村門下の高野智史四段。和服を着てキラキラアイマスクをつけているのが主役の木村九段。歌舞伎のアイマスクをつけて、ちょっと体がナナメになっているのが行方八段。説明するまでもないですが、いちおう念のため。
そうそう、この対局の解説を務めた野月浩貴八段は木村、行方の両対局者と同年生まれで、実に仲のよいトリオです。
将棋のほうは互いに飛車先を突いていく相掛かりから、木村九段が飛車を切って行方陣に襲いかかるという華々しい展開。千駄ヶ谷の受け師、両国では激しく攻めます。
窮地に追い込まれた行方八段がバッとアイマスクを外したのには驚きましたが、これは盤面を見るためでもチョップをお見舞いするためでもなく、お酒の入ったコップの位置を確認するため。ガソリン注入です。
さて勝負はというと、行方八段が相手の玉の位置を勘違いするというミスを犯したのが響き、木村九段の制するところとなりました。お祝いの会なので、めでたしめでたし。
■『NHK将棋講座』2018年2月号より

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