その借金ちょっと待った! 20年間消費者金融に勤めた著者が語る「借金を繰り返す人のリアル」

消費者金融ずるずる日記 (日記シリーズ)
『消費者金融ずるずる日記 (日記シリーズ)』
加原井 末路
フォレスト出版
1,430円(税込)
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 金利上昇に物価高騰......。日々の生活に重くのしかかるお金の問題。収入と支出のバランスが崩れ、ひっ迫した人にとっては比較的手軽にお金が借りられる「消費者金融」は魅力的かもしれない。とはいえ、消費者金融でお金を借りることへの抵抗感がある人も少なくないだろう。『消費者金融ずるずる日記』(フォレスト出版)は、消費者金融に20年勤めた著者・加原井末路氏が、消費者金融マンとして働く中で体験したエピソードを語った一冊である。

 2010年の「改正貸金業法」の完全施行により、無茶な金利や取り立てがなくなるなど、消費者金融はかなりクリーンな印象になった。しかし、著者が消費者金融会社「デック」に入社した当初は、まだまだ威圧的な取り立てがおこなわれていた時代。延滞客に電話で督促をする際は"舐められないよう"罵倒混じりになることも多い。それを毎日朝から晩までおこなうのだから、相当心身に堪えたようだ。しかし、中にはストレス解消とばかりに延滞客を責め立てる社員もいたらしい。

「『おいっ、てめー、何やってんだ! てめーはなんで約束したこと守れねーんだ! 何回言ったらわかんだ。てめーはニワトリか!』
おそらく電話の相手は、彼より一回りも二回りも年上だろう。渡嘉敷さんの語彙力のない威嚇電話はどう見てもストレス解消にしか思えない」(同書より)

 そうしないと支払ってもらえないとはいえ、そこにはお客さまなど存在せず、債務者が電話に出なくなるのも無理はないと著者は語る。

 また、電話での督促だけでなく、ときには直接出向いて取り立てることも。直接取り立てに行くのは、多くが長期延滞者の元だ。そのうちに、著者は延滞者の家に共通するある特徴に気付く。それは、「部屋が考えられないほど汚い」ということだ。

「和室の障子は高確率で穴だらけ、部屋の中からなんとも形容しがたい異臭が漂ってくることもある。また、不思議なのはペットボトルの飲料水がひと口ふた口飲んだだけでいくつも放置してあったり、食べかけの食品が床に捨ててあったりすることだ」(同書より)

 これらの小さな浪費が生活の歪みにつながる......。思わずドキっとして部屋を見渡してしまう人もいるのではないかと思うが、かくいう私も部屋をチェックしてしまったひとりである。

 同書によく登場する多重債務者とは「借金の返済のために他の消費者金融から借りることを繰り返し、借金が雪だるま式に増え続けている状態」の人を指す。聞くだけで恐ろしい状態だが、彼らを救済する方法の1つが「おまとめローン」だ。債務者からすれば複数の消費者金融の借り入れを1社にまとめ、金利や毎月の返済額を引き下げるメリットがある。ただし、おまとめローンには不動産などの担保が必要だ。

 家を担保に入れるのに難色を示す債務者も多いため、加原井氏は「おまとめローン」成約のため、あの手この手を講じることになる。家の権利者が軽く認知症を患っていたケースでは、審査の甘い医者や司法書士との面談をセッティングして「問題なし」のお墨付きをもらい、サインがままならない権利者の背後から「二人羽織」のようにしてサインをサポート。「法的にセーフなのか?」と首をかしげるが、それが通ってしまうというのがなんとも闇深い。

 しかし、そこまでするほど「おまとめローン」のメリットが消費者金融側にあるのだろうか。他社の借り入れを自社へ1本化すれば毎月の総返済額が増える上に、債務者側は毎月の返済額が引き下がるので延滞の可能性も低くなるが、狙いはそれだけではない。本当の狙いは、「おまとめローン」を成立させたあとにあったのだ。

 ローンを1本化して借入件数が減少した債務者には、融資枠を増やせる新たなビジネスチャンスがある。実際に、ローンを1本化した顧客へはある程度返済が進んだタイミングでこう営業電話をかけるそうだ。

「いつもご返済、ありがとうございます。佐々岡さんは特別お取引が優良なもので今回新たに30万円増額融資が可能となったんです。ご興味はありますでしょうか?」(同書より)

 一度借金で大変な思いをしたのだからこんな話に乗るはずはないと思うが、なんと佐々岡さんは二つ返事で「お願いします」と言ったそうだ。こうなってしまっては、「あとのない断崖絶壁」。軽々しくお金を借りてはいけないという、当たり前のことを再認識するエピソードだ。

 さて、長年消費者金融で働いてきた加原井氏は、2010年代の半ばに退職を決意する。しかし、その頃には住宅ローンに加えてクレジットカードで作った借金が400万円。じつは加原井氏、職業柄借金には否定的だったものの、クレジットカードは使っていた。キャッシング枠を飲み会などで引き出してリボ払いを繰り返すうちに、どんどん利息が膨らんでいったのだ。借金をさせる側が借金に溺れる、なんとも考えさせられる結末。結局、加原井氏は債務整理をおこない、今は"足るを知って"穏やかに暮らしている。

 どうしようもなくなって借金をする前に、できることはないか。同書はお金について今一度考え直す機会をくれる一冊である。

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