お金が持つ弱点・欠点とは? 東大生が日本を100人の島に例えて"経済"を解説!
- 『東大生が日本を100人の島に例えたら 面白いほど経済がわかった! (サンクチュアリ出版)』
- ムギタロー,井上智洋,望月慎
- サンクチュアリ出版
- 1,540円(税込)
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ここに100人が住む島があるとします。100人が生きていくためには食料・モノ・サービスが必要です。そこで、10人は農家、40人は職人、50人はサービス業を始めました。
「この島にはまだ"お金"がありませんが、この島の100人はお金が無くても生きていけるでしょうか...?」
この質問にあなたならどう答えますか?
書籍『東大生が日本を100人の島に例えたら 面白いほど経済がわかった!』の著者・ムギタローさんは「生きていける。ただし、住民全員が仲の良い家族のような関係だったら」と答えます。グループで話し合い、みんなが納得して幸せに生きていける集団を作れるなら、こんなにいいことはありません。しかしそう簡単にいかないのが社会。そこで登場したのが「お金」です。これにより食料・モノ・サービスの分配や役割分担がスムーズになりました。
ただし、お金はヒトが作り出したものなのでさまざまな欠点や弱点があるとムギタローさんはいいます。
「『お金』を放っておいたら、一部の人に過剰にお金が集中してしまいます。
また、『堤防を作る』『道路を掃除する』『被災した人を助ける』といった『お金にならないけど、みんなのためになる仕事』をする人がいなくなります。そして、まったくヒトの役に立たないのに、お金をじゃんじゃん稼げてしまうアヤシイ仕事も生まれていきます」(同書より)
アヤシイ仕事とは、たとえば、よく問題になる"転売ヤー"。同書ではシステムの穴(Glitch)を利用して稼ぐ人として「グリッチマン(Glitch man)」と呼んでいます。ムギタローさんは、グリッチマンには「ほぼ誰の役にも立っていないタイプ」と「なにかしら貢献はしているものの、貢献度のわりには稼ぎすぎているタイプ」の大きく2タイプがあるとしており、転売ヤーは前者だと記します。100人の島に"役に立たないけど稼ぐ人"がいると、島の発展は遅れ、住民は非常に困ってしまいます。
「転売ヤーは、多くの人が欲しがる商品を先回りして買い占めて、フリマサイトなどで高額な値段で転売しますが、彼らは物品の流通に貢献している輸入代行や卸売業とはまったく違います。誰かの役に立つわけでもなく、ただシンプルに流通を邪魔して、お金をかすめ取っているだけの存在です」(同書より)
ただし、「グリッチマン本人は、利益のために最適な行動をとっているだけなので、いくらグリッチマンの人間性を責めても問題は解決しません」とムギタローさん。問題なのは、それを取り締まれない「システムの穴」であり、プラスに考えれば、グリッチマンは「システムの穴」を見つける役割を果たしているのだと指摘します。100人の島のお金をうまく回していくには、グリッチマンが登場するたびに住民のルール(法律)を更新しなければならないのです。
では、もし島のお金がうまく回らなかったらどうなるのでしょうか。
貧富の差は広がり、社会的弱者が追い詰められてしまいます。このときに「社会的弱者になるのは努力が足りないから」、「自己責任だ」、「無能なのが悪い」といって助けずにいると、犯罪が増えて平和な島ではなくなっていきます。そのために100人の島には「弱い立場の人を助けるルール」があるのです。
「弱い立場の人が現れないようにするのは無理なのです。
どんな分野でも、ヒトが100人いれば、平均以下の人が50人います。
その50人のうち10人は『平均と比べてすごくできない人』になるでしょう。
弱者かどうかなんて、平均からの差でしかないため、『社会的弱者』は絶対にいなくならないのです。
そして状況は変わっていくため、病気や事故で明日あなたが『社会的弱者』になる可能性もあります」(同書より)
ムギタローさんはほかにも、100人の島を例に、お金にはなぜ価値があるのか、お金の増え方、株や為替、他国の経済破綻の事例などを明快に解説しています。100人の島の寓話は小中学生も理解しやすく、ゆるかわいい動物のイラストがアクセントになっていて視覚的にも楽しく学べる工夫がされています。
同書は"読めば稼ぎ方がわかる!"というようなビジネス本ではありません。しかし、なんのためにお金が存在していて、どのような役割があるのか、世界はどのような経済状況で、どのような問題を抱えているのかなど、今までなんとなく知っているようでボンヤリしていたお金に関するアレコレを知ることができます。それにより社会構造や世界の動きがよりクリアに見えるようになるはずです。また、読み進めていくとムギタローさんの経済に対する情熱にも心を動かされるでしょう。お金のことや経済に少しでも興味がある人なら、読んでみて損はない一冊です。
[文・春夏冬つかさ]