"男性の指"にセクシーさを感じるのはなぜ? 動物行動学から紐解く人体の不思議

遺伝子が解く! 男の指のひみつ (文春文庫 た 33-7 私が、答えます 1)
『遺伝子が解く! 男の指のひみつ (文春文庫 た 33-7 私が、答えます 1)』
竹内 久美子
文藝春秋
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> HMV&BOOKS

 生まれたときから動かしている自分の身体であっても、わからないことや不思議なことに溢れているのが"人体"だ。今回取り上げる『遺伝子が解く! 男の指のひみつ』(文藝春秋)は、動物行動学研究家の竹内久美子氏が執筆。男女の体や遺伝子に関する疑問・質問に対して、動物行動学の観点から回答した一冊である。

 タイトルに挙げられている「男の指のひみつ」は、"男をチェックする際にまず指を見てしまう"という23歳女性の質問から端を発した。竹内氏自身も男性の指をセクシーに感じるという。おそらく男性の指が好きな女性は少なくないだろう。

 まず男性の指に注目してしまう理由として、無意識に"体の末端が発達しているか否か"をチェックしているのではないかという仮説が考えられる。回虫やぎょう虫、サナダ虫などかつて人に寄生していた虫を例に挙げ、竹内氏は以下のように述べる

「そういった寄生虫がいなくなった戦後時代では、胴長が大分解消、腕や脚、指などの末端部が発達してきているわけです。

 末端が発達していることは、そういう寄生虫を飼ったことがないこと、それらに対する抵抗力、免疫力があるのだということを本来示すのではないか、と考えられるのです」(同書より)

 また発生学の分野で注目されている"Hox遺伝子"との関係性も興味深い。Hox遺伝子とは、動物が体を成していく中で工事の現場監督のような役割を担うとされる。胴体や腕・脚において、それぞれの付け根や末端を"Hox遺伝子"が担当。つまり指と生殖器という何の関係もないような2つの箇所は、共にHox遺伝子と深く関わっているのだ。

「工事の現場監督が同じ『人物』なのですから、当然、工事の出来映えも似たようなものになるでしょう。我々が指を見て(特に男の指を見て)、あれこれ品定めしたりするのは、実は生殖器や泌尿器の品定めをしていることを意味するのです」(同書より)

 他にも"左右の指がシンメトリーな男ほど精子の質がいい""薬指が長い男性は音楽の才能がある人が多い"など、人体と指の関係性について言及している。女性が男性の指にセクシーさを感じるのは単なるフェティシズムではなく、遺伝子レベルで組み込まれた感情といえるだろう。他者の体の特定部位が気になる場合、このような人体の仕組みが関係しているのかもしれない。

 さらに同書では指にまつわる項目以外にも、幅広いテーマが取り上げられている。たとえば"男性はなぜ「普通っぽいタレント」が好きなのか"という質問。男性はちょっと手の届きそうなアイドルに惹かれるのに対して、女性は普通なら手の届かないようなカッコいい人のファンになる傾向がある。

 そこで竹内氏は、男女差における"繫殖の制限"に言及。世界一子どもを残したとされるモロッコ皇帝ムーレイ・イスマイルは、なんと生涯で888人もの子どもを作ったという。それに比べて女性は子を成すのに制限があるのは言うまでもない。

 つまり男性は異性を厳しく選ばないほうが"子孫を残すうえで有利"である。それに対して女性は質のよい子を生める相手を優先的に選ぶ。無意識的な繁殖戦略の違いが、男女の恋愛観に表れているといえよう。

 また「ミュージシャン」「スポーツマン」「お笑い芸人」「不良・遊び人」という4つのジャンルで、女性が男性をどのように見ているのか、動物行動学を用いて考察。特にミュージシャンといえば、「女子にモテたくてバンドを始めた」と語る男性も多く、モテる男の代名詞のイメージがある。

 たとえば歌のうまさは、発声器官や神経系が発達していることの証だ。実際にオスの鳥の歌は免疫力をはかる指標となり、メスは歌を評価してつがいを決める。なかでも"歌で勝負する鳥"であるオオヨシキリがいい例だろう。

「オオヨシキリの"いい男"の基準は、いかに歌のレパートリーが広いか、持ち歌が多いかということにあります。もちろん歌のうまい、下手もあるでしょうが、この鳥では持ち歌の多さが物をいいます。そしてメスが浮気をする際には、一つの間違いもないくらい、ダンナより持ち歌の多いオスを選んでいます」(同書より)

 他にも「繁殖能力を失ってもなぜまだ生きるのか」「なぜ自殺するのか?」「姑が嫁をいじめる遺伝子的メリット」など、読者からのさまざまな質問をピックアップ。一見ドライに感じる回答も並ぶが、動物行動学の観点により客観的かつ冷静に身体の仕組みや面白さを学ぶことが可能だ。同書を通して、人には聞きづらい性や人体の不思議に迫ってみてはいかがだろうか。

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム