「恋愛に臆病な男性」が急増中? 「残念なオス」を通して寄生虫博士が伝える男女の現状

残念な「オス」という生き物 (フォレスト2545新書)
『残念な「オス」という生き物 (フォレスト2545新書)』
藤田紘一郎
フォレスト出版
990円(税込)
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 世の中には男と女、さまざまな生き方がある。特に近年は男女の性差が注目されている。その中で「男性だからこその苦労」を抱えている人も多いのではないだろうか。そんな悲しき性に迫ったのが、今回ご紹介する藤田紘一郎氏の『残念な「オス」という生き物』(フォレスト出版)。生物界の観点から、「オトコの進化と絶滅史」をまとめたユニークな1冊だ。

 東京医科歯科大学の名誉教授でもある藤田氏といえば、まえがきでも触れられている通り「寄生虫博士」として有名な人物。研究のため自らサナダムシを体内に同居させていたことに由来するが、そんな寄生虫博士がなぜオスという生き物をピックアップしたのだろうか。藤田氏いわく、寄生虫をはじめ生物界には「雌雄同体」が数多く存在しており、人間のように「男」と「女」の性差を有する生物がいることを不思議に思っていたそうだ。そこで「男」と「女」を俯瞰したことで見えてきた「性差があることで生まれる物語」に着目し、以下のように綴っている。

「ここ最近になって、やっと多様性について議論される世の中となってきました。性別はどうして存在するのだろう、という疑問や好奇心がそれぞれの性差の存在を認めることにつながり、多様性を受け入れるきっかけになるのではないかと感じています」(本書より)

 気になるのは第1章の「生物界は『残念なオス』だらけ!?」の中で藤田氏が指摘した、現代の日本社会は男性のほうが生き続けることが大変になっているという点。いまだ男尊女卑のイメージが強い日本だが、藤田氏が挙げる「狩猟採集社会」のニューギニアの例がわかりやすいのではないだろうか。

 ニューギニアでは狩猟で得た食糧を、部族全員に分け与えることで平和な社会を維持する。一方、日本は狩猟採集社会から農耕社会に移行したことで貧富の差が生じ、男女が担う役割も大きく変化したという。さらに「男女の不平等」をなくそうと始まったフェミニズム運動が、台所に縛りつけられていた女性を解放することに。

「その結果、先進国では女性の大半が、望むと望まないとにかかわらず仕事をするようになりました。女性は子どもを産み、育て、今まで男が担っていた仕事も受け持つようになったのです」(本書より)

 確かに日本でも女性が活躍できる環境を整備することを目的として、2016年に「女性活躍推進法」が制定された。今後さらに男女の役割が変化していく可能性は高いだろう。

 オスという生き物について、第2章で一夫一妻制に言及した藤田氏は「おしどり夫婦」にまつわるトリビアを紹介している。その語源が仲良く寄り添うおしどりのつがいからきているのは有名な話。仲良し夫婦に対して「おしどり夫婦ですね」と声をかけたくなるものだが、藤田氏によればおしどりの仲がいいのは産卵までなのだとか。

「オスは嫉妬深くて浮気性、メスは生まれた子どもに夢中でオスなどに構わず、お互い目的が達成できれば、執着なくあっさり別れる晴れ晴れとした短い関係なのが、本当のおしどり夫婦なのです」(本書より)

 それでは「人の恋愛事情」はどうなのだろう。男女の恋愛は気持ちのすれ違いが目立つという藤田氏は、肉体的・精神的な違いの他にも、思いこみによる「男らしさ・女らしさ」などのジェンダーに縛られていると指摘する。相互の思いこみから「異性とのコミュニケーション不全」に陥り、男性側に「恋愛に臆病な恥ずかしがりや」のタイプが生まれてきたという。

「これを米国の社会心理学者ブライアン・G・ギルマーティンは、『シャイマン・シンドローム』と名付けました。

それではなぜ、シャイマンが最近こんなに増えてきているのでしょうか。それも愛情表現は『男性から○○すべき』という『男らしさ』に縛られた男性主導文化にあるのではないか、と私は思っています」(本書より)

 旧来の男女の役割に縛りつけられている人類と、一夫一妻制には縛られない生き方が目立つ動物の世界。藤田氏は、一夫一妻制は限界を迎えていると警鐘を鳴らすだけでなく、新しい生き方へ踏み出す時がきているとの考えも示した。

 フェミニズム運動が盛んな一方で、やはりどこかで「女性はこうだから」「男性はこうだから」と固定観念に囚われている人はまだまだ少なくない。そんな考えに頭を悩ませてしまった時こそ、藤田氏が語ったように性差や多様性について考える絶好の機会。現代にはびこる「生きづらさ」に屈せず、よりよい人生を送れるようにしたいものだ。

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