民主主義の危機、幼稚な高齢者の増加、AI時代の教育... 倫理の崩れた社会でどう生きるかを説くエッセイ集

サル化する世界
『サル化する世界』
樹, 内田
文藝春秋
1,600円(税込)
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 フランス現代思想などを専門とする内田樹氏の新著『サル化する世界』は、著者のブログや媒体で発表した文章・講演を収録したエッセイ集です。

 まず目を引くのが、タイトルにある「サル化」という少々刺激的な言葉。これは四字熟語「朝三暮四」の元となったエピソードに由来しており、本書について著者は「『朝三暮四』におけるサルの論理形式を内面化した人たちがいつの間にかマジョリティを形成しつつある世界について」(本書より)と説明します。

 将来抱え込む損失やリスクを他人事だと思い、「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」と思い込む人が多数派を占める社会。それを著者は「サル化」と名付けているのです。

 そんな考えに基づく本書には、現代の日本が抱えるさまざまな問題が出てきます。戦後日本の民主主義、AI時代における教育、幼児的な老人の増加、人口減少社会での仕事や結婚、育児など......。こうした現状で、どうすれば「サル化」せずに社会と共生する道筋を見出していけるのでしょうか。

 方法の一つに挙げられるのが、著者がII章で触れている「気まずい共存」です。著者は日本の政治文化は激しく劣化しており、日本の政治史上、今が最低だとしています。もう一度日本の政治文化を豊かなものにするためには、自分に反対する人間はすべて敵だと思わず、「彼らの言い分をきちんと聞き、自由な論議の場で、彼らの欲求を部分的にでも受け入れ、部分的にでも実現してゆく」(本書より)ことが必要だといいます。
 
 これはどうにも割に合わない気がして、モヤモヤした気持ちになるかもしれません。けれど、このモヤモヤを受け入れ、気まずいパートナーと共同生活をすることで「ちょっとずつでも意思疎通ができて、お互いの共通する政治目標が出てくるかも知れない」と著者は述べます。

 これは他の問題にも通じることで、「正しいか間違っているか」「敵か味方か」「AかBか」といったシンプルな解を求めすぎることが、他者に思いを向けず「今の自分さえよければいい」という短絡的な"サル思考"に陥ってしまう原因なのかもしれません。

 著者は「サル化した人」の対義語を「倫理的な人」だとしており、この「倫理」とは「他者とともに生きるための理法」(本書より)のことだと説明。今だけではなく過去の自分や未来の自分とともに生きるために。そして自分とは異なる者とともに生きるために。私たちは考え、成熟することをやめてはいけないと感じさせられます。サル化に陥らないために、私たちはいま、何を考え、どう行動すべきか。本書はその道しるべになる一冊と言えるでしょう。

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