漫画「あげくの果てのカノン」には、別のラストがあった? 「読む人次第で変わる内容に」
- 『あげくの果てのカノン 1 (ビッグコミックス)』
- 米代 恭
- 小学館
- 607円(税込)
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青山ブックセンター 本店で7月23日、トークイベント「ハッピーエンド(もしくは地獄のはじまり)の作り方」が開催されました。
同イベントは、『月刊!スピリッツ』(小学館)に2015年から2018年2月まで連載された漫画「あげくの果てのカノン」の完結記念として行われ、作者である米代恭さんと、同じく『月刊!スピリッツ』に現在「映像研には手を出すな!」を連載中の大童澄瞳さんが登壇しました。
米代さんと大童さんは、同年代であること、お互い『月刊!スピリッツ』の掲載が紙媒体初の連載となったことなど共通点があり、プライベートでも山菜採りに一緒に行くなど親交が深いそうです。
「あげくの果てのカノン」は、地球外生命体の侵略を受けた近未来の東京を舞台に、不倫に走る主人公・高月かのんと、彼女の高校の先輩である境宗介との"不倫"を描いたSF漫画。一方の大童さんが手掛ける「映像研には手を出すな!」は、アニメ制作をする高校の同級生である「設定が命」の浅草みどり、カリスマ読モの水崎ツバメ、お金大好きの金森さやかの3人が描かれた作品です。
トークイベントではまず、お互いの作品に対する感想からスタートしました。
大童さんは「率直に言うと『俺には読めねー』という感想を持ちました。登場人物の感情がものすごく掘り下げられているんですが、僕が描いている漫画に登場するキャラクターが抱く"イノセンスなヤバさ"みたいなものとシンクロして、それに耐えられないほどヤバい作品だと感じました」。一方の米代さんは、「絵が上手いというのと、私自身、設定が決められないのですが、しっかりと決められていて。自分ができないことをやっているのですごいと思いました。クリエイターを目指す人はみんな読んだ方がいいと思います」と語りました。
そんななか、大童さんは「『こんなのハッピーエンドに決まってる』と思っていました。というのも、どちらかというと僕は、人の恋愛なんかどうでもいいというタイプの人間なので、その人たちが目指している幸せとは何かという部分に注目してハッピーかバッドかを決めるので、先輩の表情やどう主人公に対応するのかという部分を含めてハッピーエンドになったと思っています。もし先輩が死んじゃうという結末ならバッドエンドだったと思います」と持論を展開。
作者である米代さんは「ずるい言い方なんですけど、『メリーバッドエンド』っていうのをやりたいと思っていて。その概念って、当人たちは幸せでも周りは不幸、または周りは幸せでも当人たちは不幸みたいな、ハッピーともバッドとも言えないようなラストをやりたくて。なので、読む人次第で変わる内容にしはしたかったんです」と打ち明けていました。
ちなみに米代さんはBOOKSTANDの個別の質問にも答えてくださり、本作についてこんなエピソードも。
「実はラストはもともと決まっていたわけではなく、2巻の段階で、自分の想定とどんどんズレていって、プロットは考えるんですけど次の月から変わる、みたいなことがよくあり......。そのときに自分に起こった出来事がダイレクトに反映されたりしていました。最終回も一応"こういう流れ"みたいなのはあって、今とは違う、主人公が先輩の手を取って出て行くなんていうラストも構想にあったんです」
「(5巻を振り返って)かなり大変でした。以前から人の『感情』を題材にしたいとは思っていたなかで、今回は『不倫』をテーマにした作品を扱いましたが、一般的に妻バレすると不倫って一気に収束していくと思うんですけど、思いつきもあって2巻の冒頭でいきなり奥さんを出してしまい(笑)。そういう思いつきの面白さも含まれた作品ではありますが、自分がしたいことや、編集方針を擦り合わせていったことは大変でした」
そして最後に、「恋愛って日常生活のなかで一番異常な感情だと思っていますが、この作品を通じて『誰もが自分に忠実に生きていった方が良い』ということを伝えたかったので、たとえば何かに対して愚直に好きという...この作品をまだ読んでない人はぜひ手に取ってみてほしいです。個人的には『変な関係性』や『一見、異常なんだけど成り立っている何か』に興味があるので、今後もそういったことをベースした作品を描いていきたいです。今ちょうど次回作も準備中なので、楽しみにしてほしいです」と語ってくれました。