ポストトゥルース時代の小説家のデビュー作 新しい純文学の形

ナイス・エイジ
『ナイス・エイジ』
鴻池 留衣
新潮社
1,728円(税込)
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 2018年現在、来年の5月には新元号になるというこの時代は「ポスト・トゥルース」という言葉で表されるものとなっている。真実も虚偽も入り混じり、誰もが自分の信じたいものだけを信じる世界はひどく生き辛い。政治の話をすれば、ネトウヨだパヨクだとか、安倍政権に対する称賛と非難がぶつかり合い、もはや話し合うという人間らしい態度はこの世界から忘れ去られてしまった気さえしてしまう。

 なぜ、こうなってしまったのか? 

 答えは簡単だろう。インターネットの普及によって、人と人が簡単に繋がりやすくなってしまった結果だ。かつて、インターネットが登場した時には宇宙に続く新たなフロンティアとして、次なる可能性として人々に熱狂的に迎え入れられた。しかし、簡単に空間を超えて、人々の意識が繋がってしまうとロクなことにならないことを今の世界は証明してしまっている。

 鴻池留衣のデビュー作『ナイス・エイジ』には、表題作の『ナイス・エイジ』と2017年新潮新人賞受賞作『二人組み』の二作が収録されている。

 『ナイス・エイジ』は一言で言うと、タイムトラベルとネットについての物語だ。2009年のある日、インターネットの匿名提示板に「2112年から来たけど質問ある?」というスレッドが立つ。そのスレ主の「2112」というハンドルネーム持つ自称未来人は3つの「予言」を的中させた。

 1、東日本大震災、2、民主党政権から自民党政権に変わり長期政権化すること、3、原発事故によって被災地周辺が立ち入り禁止。しかし、彼は突如としてネットから消えてしまう。再び現れたのは2011年の震災後だった。今度の「予言」は、5年以内に国民的アイドルグループの解散と東京オリンピック開催を当てるものの、首都直下型大地震は外してしまう。そして、2016年に三たび現れ、そのスレッドを見ていたネット住民たちにオフ会をしようと言うのだ。

 このオフ会にAV女優の絵里(掲示板やオフ会では「アキエ」と名乗っている)が参加する。参加した誰もが、どの人物が「2112」なのか疑心暗鬼のまま、それぞれ飲み会を楽しむことになる。絵里は「進次郎」と名乗る青年と意気投合する。翌朝、気づくと絵里の家に二人はいた。ここから物語は恋愛小説のようにはならずに、なんと進次郎は絵里に「おばあちゃん」と言うのだった。

 AV女優と2112年の未来からやってきた未来人の孫の同棲生活が始まる。絵里は新次郎に隠れて、スレッドを立てて未来人である彼の様子を掲示板に報告していく。そして、掲示板は炎上して彼女の素性も割れてしまい、現在のネットに起こる様々な厄災が二人の周りに起き始める。

 だが、未来人の孫が言うところのタイムマシン(赤いキャリーケースを偽装している)が果たして本物なのか、そもそも彼は本当にタイムトラベルしてやってきたのか。また、タイムトラベルにおける疑問点など、真実そうで嘘のような話がどんどん出てくる。時間旅行者という設定を使いながら、現在におけるインターネットと世界との関係性というものを純文学の形で描いている。これを読むだけで著者の鴻池さんは面白い小説をこれからどんどん書いていく作家だと確信することになるだろう。

 新潮新人賞受賞作『二人組み』は、優等生だが音楽の授業などを妨害するひねくれものの中学男子の本間と、坂本ちゃんというほぼ無口で自己主張をまったくしない同級生の女の子をメインとした物語である。

 本間は坂本ちゃんに興味はなかったが、度の強い眼鏡をした平凡な彼女の顔とは真逆な、発育の良い身体に気づいたことにより、彼は8割の性欲と2割の彼女への謎の好奇心でどんどん近づいていくようになる。本間の性欲と何も言わない坂本ちゃんの二人だけの秘密の時間が過ぎていく。

 中学男子の中二病的な自尊心と自己中ぶり、俺だけは世界をわかっているというある種のおごり、スクールカースト的な教室という狭い世界で起きる出来事と人間関係をリアルに描いている。この『二人組み』は言うなれば、庵野秀明氏によってアニメ化もされた『彼氏彼女の事情』meets 映画化され大好評だった『桐島、部活やめるってよ』を純文学で描いてしまった作品と言えるのではないだろうか。スラスラと一気に読み終わってしまう。最後の本間の行動は本当に最低で最高だ。本間はなんだかんだ言っても行動の人であり、思いをぶつけずにはいられない。本間と坂本ちゃんの二人のどちらもわたしたちの中に潜んでいる要素だからこそ、彼らがより身近な存在として感じられるのだろう。

 『ナイス・エイジ』と『二人組み』の二編は、どちらも一人の女と一人の男を中心にした物語だ。著者はこの"二人組み"というコンビネーションを使うことによって、ネット社会も中学生時代も軽やかに読み進められるものにしている。鴻池留衣という小説家の名前はこれからもっと聞くようになっていくに違いない。まずはこの1冊から追いかけよう。

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