ヤクの大脱走、宿直の夜に野犬襲来... 動物園の波乱万丈裏舞台!

動物園ではたらく (イースト新書Q)
『動物園ではたらく (イースト新書Q)』
小宮輝之
イースト・プレス
968円(税込)
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 2017年は6月に上野動物園にジャイアントパンダ「シャンシャン」が誕生し、12月からは抽選制で観覧が開始となり、シャンシャンフィーバーに沸いた一年となりました。

 そんな中、2017年11月に発売された本が『動物園で働く』。上野動物園、多摩動物公園、井の頭自然文化園という都内3園で40年間働き、上野動物園では園長も務めた「動物園博士」こと小宮輝之さんが、動物と触れ合う歓びと驚きに満ちた日々を記した一冊となっています。

 1972年、多摩動物公園に就職し飼育係となった小宮さん。最初はいわゆるスター動物ではなく、イノシシやヤク、ロバといった "安い動物"の担当となりますが、そこから動物たちの世話に奮闘する生活が始まります。

 たとえば、仕事の慣れが油断につながったがために起きた"ヤクの大脱走"、園外に飛び去ったことで京王線の電車まで止めてしまったクジャク、宿直の夜に遭遇した"シカ舎への野犬襲来"......。もうこれだけでも話題には事欠かないほど!

 その後、小宮さんは係長、課長と昇進を続け、上野動物園や井の頭自然文化園でも働くこととなりますが、この間もさまざまな活動を続けていきます。

 上野動物園では繁殖のためのゴリラを世界各国から集めたり、日本の国立動物園として何度となく世界中から動物大使を受け入れたり。井の頭自然文化園では雑木林にリスを棲ませる「リスの森構想」を試してみたり、多摩動物公園では「モグラPT(モグラプロジェクトチーム)」のメンバーを有志で募りモグラ採集・飼育をおこなったことも。

 そして2004年、上野動物園の園長に任命された小宮さん。ここでも30年越しの念願であった「クマの冬眠」を成功させたり、ライチョウの「種の保存」を支援すべく飼育繁殖に取り組んだりなど、興味深いチャレンジを続けていきます。

 最後の大仕事となったのは2011年。新しいジャイアントパンダのリーリーとシンシンを中国からむかえるというものだったそう。皆さんもご存じのように、このリーリーとシンシンを両親として生まれたのが2017年、一躍大人気となったシャンシャンです。本書を通じて小宮さんの仕事ぶりを見るにつけ、飼育係たちの存在はまさに動物たちの「生存環境」そのものであり、生命線であることがわかります。

 私たちが動物園で動物たちの元気な姿を見られるのは、小宮さんのような飼育係をはじめとするスタッフがいるからこそ。日々いかに情熱を持って動物たちと向き合っているか、動物園を盛り上げるべくどのように運営を進めているのか。その裏舞台をのぞいてみると、またちがった視点から見ることができ、動物園をおとずれる楽しみがさらに増えるに違いありません。

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