アートサスペンスから一転、原田マハ氏が描いた引きこもりの24歳少年

生きるぼくら
『生きるぼくら』
原田マハ
徳間書店
1,728円(税込)
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 著書の『楽園のカンヴァス』が第25回山本周五郎賞を受賞し、第147回直木賞の候補にもノミネートした原田マハ氏。美術の世界をどっぷり描いたアートサスペンスが話題となりました。しかし、新作となる『生きるぼくら』では、いじめを受け引きこもる青年の姿を作品の真ん中にもってきました。

 母子家庭、学校でのいじめ、就職活動の失敗などを受け、引きこもりとなった24歳の青年・人生。昼過ぎに空腹で目覚めると母が購入したおにぎりやカップラーメンで腹を満たし、アルバイトに出るわけでもなく、パソコンの前へ。夜が明けるまで、ネットゲームに興じ、他人のブログに中傷コメントを書きまくる。脳みそが溶けそうになってようやく、床に倒れるように眠る。そんな堕落した毎日を過ごしていた人生。

 ある日、「私は、もうだめです。いままでどうにかがんばってきたけど、疲れ果ててしまいました。しばらく休みたいので、どこかへ行きます」と、母が出て行ったことを知らせる手紙が一通残されていました。そして、何枚かの年賀状が残されており、「この年賀状をくれた人の中で、誰か頼ってみろ」とも。

 母に見捨てられた人生。働きもせず引きこもりを続ける自分のことを、母が永遠に面倒をみてくれる、そう心のどこかで思っていたことを後悔するのです。

 薄っぺらい年賀状に束に手を伸ばして、一枚一枚眺めていると、「余命数ヶ月」という文字が飛び込んできました。父方の祖母からの年賀状でした。祖母を思いだし、楽しかった幼少期の記憶が蘇った人生は、祖母のいる長野県・茅野に向かうことを決意。そこで、再会した祖母と対人恐怖症の少女との3人で奇妙な生活をはじめます。「田んぼ」を舞台に、再び「人生」を歩みだした人生。収穫の時期、3人が手に入れたものとは......。

 「度胸と直感」が人生のキーワードだという原田氏。そんな自身の感性を人生に重ねているのでしょうか。物語のポイントに「度胸と直感」は欠かせません。

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