言語脳科学の第一人者が語る「電子書籍になくて紙の本にあるもの」

脳を創る読書
『脳を創る読書』
酒井 邦嘉
実業之日本社
1,296円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> エルパカBOOKS

 2010年の電子書籍元年から2年。本や新聞をすべてデジタルで読む人は少ないでしょうが、雑誌などの紙媒体の劣勢が好転するともいえないのが現実。確実に読書を取り巻く環境は変わっているといえるでしょう。

 「紙の本がいまだ主流のうちに」と、電子書籍の問題点と紙の本の効用について語る人物がいます。それは、言語脳科学が専門の酒井邦嘉東大教授。著書『脳を創る読書』で、これらを「想像力」というキーワードを用いて紐解きます。

 まずは電子書籍の利点から。わからない単語が出てきた場合、辞書などの他のソフトウェアと連動させられること、電子書籍自体の「重さ」や「大きさ」が電子端末以外事実上ゼロであるところなどを挙げます。

 そして、長所と短所は表裏一体。同じ点が問題点にもなりうるのです。すぐに検索ができるということは、頭で考える前に調べて、答えに出合った時点で一切考えることをやめてしまうことにつながります。つまり、電子書籍の場合、「想像力」をあまり発揮しなくてもよいというわけです。本の重さや大きさからのストレスを感じないということは、「書籍が本来持っている手がかりが希薄」ということになります。

 たとえば、1冊の長編小説を読む場合、紙の本なら「視覚的にも触覚的にも」常に全体のどのあたりを読んでいるかを把握しながら読むことができます。残りのページ数によって、物語があといくつ展開するのか、あたりをつけることが可能にもなるでしょう。

 どちらにも共通するのは「想像力」を使うかどうかということ。想像力を使う機会が多ければ、その力は大きく養われていきます。これには情報量が少ない分、紙の本に軍配をあげます。酒井氏はさらに、想像力が働かないと記憶することが難しくなる、想像力がないと言語コミュニケーションで多くの失敗が起きるなど、言語脳科学の分野からさまざまな事例を説いていて、私たちをハッとさせます。

 書籍・新聞・雑誌など、紙に印刷された「文字」が脳に与える効果について考えさせられます。

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム