興奮の大作「陽の鳥 HINOTORI」-「神の雫」他、メガヒット仕掛人の原作者が放つ科学ミステリー
- 『陽の鳥』
- 樹林 伸
- 講談社
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亜樹直、天樹征丸、安童夕馬、これ、じつは同一人物のペンネームです。『神の雫』『金田一少年の事件簿』の漫画原作者といえば、ピンとくる人もいるかもしれません。本名、樹林伸(きばやし・しん)。講談社の元編集者で、長らく漫画の世界でメガヒット作を産み出し続けてきた人物です。
彼が今回、本名で執筆したのは逃れることのできない近未来を予見した科学ミステリー小説『陽の鳥 HINOTORI』。ある雑誌のインタビューで「小説でしかできないことをしたかった」と語っています。
物語の主人公は天才科学者、沖田森彦。1999年に彼は世界で初めて、ヒト・クローン胚の樹立に成功します。しかし、世紀の発表を目前にしたちょうどそのとき、彼に悲劇が襲いかかります。それは、愛する息子の不慮の死。失意の末、沖田が決断したのはタブーを犯すことでした。つまり、クローン人間として息子を「復活」させることだったのです。その後、舞台は2008年へ。幸せな沖田家に訪れた招かれざる客――息子の死に関する秘密が暴かれていき、さらなる事件が起きて......。
現在、この作品はWEB上で冒頭の80ページ以上を無料公開しています。なんとも"太っ腹"な企画ですが、それだけ制作側が物語の面白さに自信を持っているということ。実際、本作を途中まで読んでしまったら、たいていの人は続きを読みたくなることでしょう。
『陽の鳥 HINOTORI』と聞いて、手塚治虫の代表作のひとつ、『火の鳥』を想起する人も多いでしょう。作品の冒頭で沖田ら登場人物たちが、「不死鳥(フェニックス)は『灰』の中から復活する」という伝説に触れる場面があります。そして、「灰」を「胚」に置き換えてみせる。このシーンはまるで、作者からのヒントのようです。タイトルの意味していることは何なのか、読者にそう問いかけ、物語の先へと誘(いざな)います。
「陽」という言葉には、太陽、火、光などの意味のほかに、「いつわる」「みせかけの」という意味もあるのだそう。これもまた、「陽の鳥」を読み解く際の、重要なキーワードになるといえるのです。これ以上詳しくは語れませんが......。