遠足型消費の時代
- 『遠足型消費の時代 なぜ妻はコストコに行きたがるのか? (朝日新書)』
- 中沢明子,古市憲寿
- 朝日新聞出版
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街のあちこちで見かけるトートバック「ディーン&デルーカ」。このディーン&デルーカとは、ニューヨークに本店がある高所得者向けの高級食材店として知られており、普通の人にはちょっと手が届かない商品ばかりを扱っています。どうして、そんなショップのトートバックがこれほど人気なのでしょうか。
書籍『遠足型消費の時代』の著者・中沢明子さんは、それは日本の女性たちがディーン&デルーカの「商品そのもの」ではなく、高級感が紡ぎだす「物語」を購入したいからだと分析します。
2002年に初めて日本に進出したディーン&デルーカは、女性や子どもに「D&D」「ディンデル」などと略されるほどにブランドが浸透。ですが、全国に店舗を展開していると思いきや、実は11店舗しかありません。それも丸の内、六本木、青山、渋谷、成城、吉祥寺、名古屋、羽田など、流行の発信地や、東京の玄関、高級住宅街などといった「非日常感」に満ちた場所に集中しています。
ディーン&デルーカの海外初出店を全面的にプロデュースしたのは空間プロデューサーの山本宇一さん。駒沢の「バワリーキッチン」や原宿の「ロータス」など、先鋭的なカフェを次々とプロデュースした「カフェブーム」の仕掛け人として有名です。そんな山本さんが「カフェブーム」を通じて目指したものこそが、「商品」ではなく「物語」を訴求する消費のあり方でした。
ディーン&デルーカのショップに行ったことがある女性たちは、友だちにその評判を口コミで伝えます。全国でも限られた場所、それも多くの女性が憧れる場所にしか店舗を展開しない戦略と相まって、こうした口コミは徐々に「神話」として形成されていきます。
ですが、高級食材を毎日購入することは、普通の人には無理があるというもの。そこで、ショップの「象徴」としてのトートバックが登場するのです。小さいものなら1500円程度のこのバックを購入し持ち歩くことで、誰でも手軽にディーン&デルーカという「ブランド」の一部になることができるというわけなのです。
グッチやプラダといった高級ブランドも似たような「物語」を訴求することでブランドの価値を保っていますが、それらの商品はなかなか容易に手が出せません。安価なトートバックを「象徴」として使うこの戦略は、女性の心理をよく理解した非常に巧みなものと言えるでしょう。