第83回 今じっくり楽しんでほしい、ドラマ・シリーズ「ウォッチメン」
- 『ウォッチメン(字幕版)』
- ティム・ブレイク・ネルソン,ジェレミー・アイアンズ,ドン・ジョンソン,レジーナ・キング,ルイス・ゴセットJr.
- >> Amazon.co.jp
いま動画配信サービスで映画やドラマを視てらっしゃる方も多いと思います。アメコミ好きにとってはこれを機に改めてアベンジャーズをイッキミしたり、アローとかスーパーガールのようなTVドラマ、ザ・ボーイズ、タイタンズといった配信用のオリジナル・ドラマをじっくり楽しんではいかがでしょうか?
今日ご紹介する「ウォッチメン」もアメコミ原作のドラマ・シリーズです。いまスターチャンネルさんで独占放送されていて4月22日から主要なプラットフォームでデジタル配信が開始です。
あれ?「ウォッチメン」って映画じゃなかったっけ?そうです。本作は1986年に発表されたグラフィック・ノベル(アメコミの中でもアダルト層を意識した作品をこう呼ぶときがあります。漫画に対して劇画というようなものです)が原作で、2009年に映画化されました。
このドラマ版「ウォッチメン」は原作や映画で描かれた事件=1985年に人類を襲ったNYでの事件の34年後、つまり2019年を舞台にした"続編"という形をとっています。とはいえドラマが進むにつれ過去になにがあったのか説明されていくので原作や映画版を知らなくても楽しめます。
舞台はアメリカ、オクラハマ州のタルサ。ここでは1921年に白人の暴徒たちが黒人たちを襲うという"タルサの虐殺"が起こりました。これは本当に起こった事件です。ドラマの冒頭でこの惨劇が描かれ物語の重要な要素となっていきます。
主人公はこの街の女性黒人刑事アンジェラ。実はタルサ警察は "第七騎兵隊"と名乗るヘイトクライム集団から襲撃を受け警官たちが殺されるという過去があり、以来警官たちは自分たちの身分を隠し、そして覆面をして治安維持につとめています。
アンジェラも子どもたちに自分が刑事であることを隠し、修道女(シスター)を思わせるコスチュームを着て<シスター・ナイト>というコードネームで刑事活動をしているのです。一方の"第七騎兵隊"もメンバーは不気味な覆面を被った秘密結社であり、超過激な白人至上主義者たちなのです。
物語はアンジェラの上司で白人だった警察署長が何者かに殺されたことから始まります。真相を追うアンジェラを待つ運命とは?
犯罪者と刑事たちがそれぞれマスクをしているという異常な設定をのぞけば王道のクライム・サスペンスですが、彼らが住むアメリカは、僕らの知っているアメリカではなく、原作や映画で描かれた"もう一つのアメリカ"なのです。
その"もう一つのアメリカ"では、大きく4つのことがいまのアメリカと異なります。
①1930年代にミニッツメンというヒーロー集団が登場し、70年代後半まで自警団的ヒーロー行為というものが認められていた世界
②1950年代に科学実験の失敗から生まれた青い超人ヒーロー、Dr.マンハッタンの活躍によってアメリカはベトナム戦争に勝利しサイゴンがアメリカの州になっている世界(Dr.マンハッタンはいまは一人火星に住んでいる)
③1985年、NYで全人類を震撼させる恐ろしい事件が起き、対立していたアメリカとソ連(ロシア)はいがみあいをやめ共同でこの事態に対処すべきだと融和がなされた世界
④アメリカ合衆国の大統領に、あのロバート・レッドフォードが就任している世界。この4つの要素はドラマをみていくうちに語られていくのですが、あらかじめ頭にいれておくとよいかと思います。
原作版・映画版のウォッチメンは1980年代の米・ソ対立が第三次世界大戦にまで発展するのではないか、という不安をとりあげていました。そうウォッチメンというのはヒーロー物のフォーマットを借りた社会風刺的なドラマでもあります。そしてこのドラマ版では、現代社会の憂うべき問題として差別と偏見が社会を分断していくことに警鐘を鳴らしています。ダークなヒーロー物であり、クライム・サスペンスであり、社会派ドラマです。
ぜひじっくりとウォッチ(視聴)してみてください。
(文/杉山すぴ豊)