連載
映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画惹句は、言葉のサラダ】第6回 ゴジラVSシリーズの優れた惹句ワークは、生頼範義の名イラストと共に、語り継がれていくだろう。

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●追悼・生頼範義。

 生頼範義さんが亡くなられた。
 彼の描いたイラストは、映画、小説、ゲームなど幅広い分野で活用され、作品の魅力を大きく際立たせたことは今さら言うまでもないだろう。『帝国の逆襲』以降の『スター・ウォーズ』シリーズのポスターや『ミラクルマスター・7つの大冒険』『テンタクルズ』などの映画の日本版ポスターなど、こと映画に限ってもその仕事ぶりは多彩を極めたが、筆者としては生頼イラストが最も効果的に使われたのは、ゴジラ映画の『ゴジラVSビオランテ』から『ゴジラVSデストロイア』。所謂「VSシリーズ」でのイラストワークであると思う。

 1989年12月16日公開の『ゴジラVSビオランテ』から、1995年12月9日公開の『ゴジラVSデストロイア』までのVSシリーズ6作品は、毎年12月第2週から東宝系で公開され、いずれも配給収入(当時は興行収入での発表ではありませんでした)10億円を超えるヒットとなっていた。最高は『ゴジラVSモスラ』の22.2億円、最も低くても『ゴジラVSビオランテ』の10.4億円と10億円の大台をクリア。これだけヒットを続けたのは、東宝宣伝部による優れたアド展開が大きく作用している。アドとは映画の宣伝用に作られるポスター、広告類に使われるビジュアルを指すわけだが、このビジュアルを段階的に露出することで、当時の東宝はゴジラVSシリーズ新作への興味を高めていったのである。


●基本はファミリー番組。されど大作感を前面に出す。

 例えばVSシリーズ第1作の『ゴジラVSビオランテ』の場合、生頼画伯によるイラストを使ったティーザー・ポスターに惹句はないが、これだけでもゴジラがとんでもない怪獣と対決するのだという、強いインパクトを残す。そして映画の公開が間近になって作られる本ポスターでは、次のような惹句が添えられた。

「超ゴジラ。
 それはゴジラ細胞から生まれた!」

 そして公開前日の新聞に掲載された広告の惹句がこれ。

「いよいよ明16日ゴジラ上陸!
  2大怪獣の激突が 日本の冬を熱くする!」

 ゴジラ・シリーズである以上、ゴジラが大暴れするのは当たり前。『ゴジラVSビオランテ』では、対戦相手であるビオランテが、バイオ・テクノロジーによってゴジラ細胞から生まれたこと、その巨大さ、戦闘力がゴジラを苦しめることが惹句によって誇示されている。毎年元日に邦画各社が新聞各紙に出稿している元日広告では、「最強 120メートル・最大 20万トンの敵出現!!」と、ビオランテの存在を大きく打ち出しているものの、ビジュアル・インパクトが今ひとつ弱い怪獣故、モノクロの新聞広告というメディアではその存在感を効果的に誇示し得なかったのが残念だ。

 対戦怪獣の知名度、人気によってゴジラ映画の興行成績は大きく左右される。そのことは『ゴジラVSキングギドラ』の興行成績によって証明された。配収14.5億円。前作対比4億円の増。この成功によってゴジラVSシリーズが確立され、同時にその宣伝展開のパターンも構築されていく。

 当時の東宝では、ゴジラ映画をファミリー映画と認識していた。マニアではなくファミリーを動員し、映画館を満席にする。それこそが正月映画に課せられたミッションであった。ただしそのための方法論は、従来のゴジラ・シリーズとは少しばかり異なっていた。

 新作映画の公開を最初に告知するティーザー・ポスターの段階で、ゴジラVSシリーズでは生頼画伯のイラストを大々的に使用。そこに新作の世界観を表すフレーズを1行、どどーんと打ち出す。このイラストと一発コピーが即ち、新作宣伝の旗印となるわけだ。例えば『ゴジラVSモスラ』の場合ならば、ファンタジー性の高いイラストに「極彩色の大決戦」、『ゴジラVSスペースゴジラ』では「破壊神降臨」と、スケールの大きな大作感を前面に打ち出し、見る者のイメージと期待感を高めて行った。面白いのは『ゴジラVSメカゴジラ』のティーザー・ポスターで、この場合は「この戦いで、すべてが終わる。」をメイン惹句とし、サブ惹句では「飛翔! 合体! 超兵器! 史上空前のバトルが始まる」と派手にブチ上げ、生頼画伯のポスターも複数のメカが合体したらしいメカゴジラが格好良く描かれている。ところが実際の映画では、メカゴジラの合体は飛翔兵器ガルーダを背中に装着するだけ。これは生頼画伯へのイラスト発注からティーザー・ポスターの制作がコンセプト段階で行われるため、その後設定やストーリーが変更されることがあるために起こった事態である。


●「ゴジラ死す。」から「正月早々、最期です。」へ

 いずれの場合も大切なのは、ファミリー・ターゲットの作品だからと言って、子供たちだけを過剰に意識したアド展開を行わないこと。間違っても「こんどゴジラははじめて空を飛びます」なんて解説を入れてはいけない。映画の宣伝、特にVSシリーズのように1年近い長期宣伝となると、ファミリー客を想定していても、まず大切なのは最初に大作感を強調すること。そこから徐々にターゲットを絞っていき、映画公開直前から公開中にかけて、年少の観客たちを視野に入れたアド展開を行っていく。つまりターゲットに向けて徐々に絞り込んでいくのがこの場合の宣伝テクニックであり、ゴジラVSシリーズの場合、生頼画伯のイラストと力強い惹句の相乗効果がティーザー段階で強いインパクトを観客やメディア関係者に与え、それが後々のパブリシティやタイアップ等を有利に導くことを可能にしたのである。

 1995年12月。いよいよVSシリーズ最終作となる『ゴジラVSデストロイア』が公開される。

「ゴジラ死す。」

 この作品の場合はティーザー段階での生頼画伯のポスターから公開まで、一貫してこの惹句がメインに使われている。それだけゴジラの死が初めて描かれることのインパクトが大きかったのだ。ところがこれが、映画公開中になると一転してソフトというか、笑いを誘うタッチのものに変わっている。96年元日付の新聞広告に掲載されたのが、この惹句だ。

「正月早々、最期です。」

 『ゴジラVSデストロイア』が配収20億円と、目論見通りの大ヒットを記録したことに対する、東宝の余裕が感じられる惹句だが、「ゴジラ死す。」の惹句が硬質で悲劇的な印象を残すのに対して、いささかコメディタッチなこの広告もまた、ファミリー層を映画館に誘うことに貢献した。

 1984年の復活『ゴジラ』から派生した形で誕生し、製作・宣伝共に試行錯誤の末にヒット・パターンを確立したゴジラVSシリーズは、『ゴジラVSビオランテ』『ゴジラVSキングギドラ』『ゴジラVSモスラ』『ゴジラVSメカゴジラ』『ゴジラVSスペースゴジラ』『ゴジラVSデストロイア』の6作品で、トータル配収102.3億円、1作平均配収17.05億円とシリーズ作品としては稀に見るハイ・アベレージな成績を収め、多くの観客を魅了したのであった。

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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