もやもやレビュー

家が少女たちを食べちゃう『ハウス』

HOUSE (ハウス)
『HOUSE (ハウス)』
池上季実子,神保美喜,大場久美子,松原愛,南田洋子,桂千穂,大林宣彦
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最初のうちは少女たちの楽しい夏休みのはじまりかと呑気に観てしまう。『ハウス』(1977年)では、オシャレ、マック、クンフー、ガリ(ガリ勉の略)、メロディー、スウィート、ファンタという愉快すぎるあだ名を持つ女子7人が、オシャレの叔母が暮らす田舎のおうちに泊まりにいく。ところがいざ到着した家は埃と蜘蛛の巣だらけ。お化け屋敷のような家に平気で暮らす叔母は少女たちを優しく迎え入れるが、やはり少々不気味である。それはそう、ここは嫁入り前の少女をひとり残さず食べてしまう屋敷なのだ。一体どうやって家が少女を食べるのかは、見てのお楽しみである。

家が人を食べるというアイデアは、当時アマチュアだった大林宣彦監督が「ジョーズのような大ヒット作を考えてくれ」と東宝映像企画室長に頼まれて思いついたものである。あまりの突飛さから企画はすぐに採用されたものの、大林は無名のため監督には選ばれなかった。そこで監督を探そうとすると「そんなバカな映画、ごめんだね」と誰もがこぞって却下。どうにかこの作品を世に出したい一心で、大林監督は制作が一切はじまっていない映画の宣伝を先回りして行う、という思い切った作戦に出た。そうして自分で描いたポスターをのせた名刺をそこらじゅうに配り、あらゆるメディアに映画を売り込みはじめた。すると、ハウスのマンガ版・小説版が書店に並び、サントラができあがり、ラジオドラマまで公開され、大きな反響を呼んでしまった。東宝はこの盛り上がりを見て、マイッタ!と監督の座を大林監督に授けたそうだ。当時からしてみればずいぶんと型破りな映画を大胆な行動力で生み出した大林監督にあっぱれである。

(文/鈴木未来)

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