パリの郊外に住み込んで作られた『憎しみ』
- 『憎しみ 【ブルーレイ&DVDセット】 [Blu-ray]』
- ヴァンサン・カッセル,ユベール・クンデ,サイード・タグマウイ,フランソワ・レヴァンタル,エドュアルド・モントート,マチュー・カソヴィッツ
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パリと聞いて真っ先にバンリューを思い浮かべる人はそういないだろう。でも、美しい建築物が立ち並ぶ煌びやかなパリから1時間ほど車を飛ばせば、景色はたちまち低所得者が暮らす殺風景な公営住宅団地(バンリュー)へと変わる。パリの周辺に点在するバンリューは、多くの移民が住む場所でもあり、騒ぎが起きやすいとされることから警察が常に監視している。ただ安全を守るはずのところが、警察自体が暴動の発端となっていたりもする。銃で住民を脅かし、さらには脅かしている最中に誤って発砲、といったことも。このような「ミス」から命を落とした住民の数は、1980年から今に至るまで300人以上にも及ぶ。
1995年に公開されたマチュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』が撮影されたのは、パリの北西部にあるバンリュー、シャントルー=レ=ヴィーニュ。本作ではここに住む東洋系ユダヤ人のヴィンス(ヴァンサン・カッセル)、黒人のユベール(ユベール・クンデ)、アラブ系二世のサイード(サイード・タグマウイ)の友人3人の姿を通して、バンリューの人々と生活がモノクロで描き出されている。
当時27歳のカソヴィッツがこの作品を作ろうと決めたきっかけは、10代にして警察の手により命を落とした、1993年のマコメ・ムボレ事件。バンリューの人々をできるだけ忠実に表現するためには「住むしかない」ということで、撮影前に主人公の3人と撮影クルーを数人連れて、二カ月ほどシャントルー=レ=ヴィーニュのアパートに滞在。辺りに娯楽施設はほとんどないものの、カソヴィッツは都心に遊びに出かけたりはせず、時に暴動を目にしながら少しずつコミュニティに馴染んでいったという。そのおかげか住民にはいつしか受け入れられ、何のトラブルもなく無事作品を完成させることができたとか。
ちなみにカソヴィッツといえば『アメリ』でアメリのお相手役、ニノを演じた男でもある。カソヴィッツをはじめて目にしたのが『アメリ』であろうとなかろうと、主人公3人の社会に対する憎しみをときに静かに、ときにメラメラと描く本作には衝撃が走ることだろう。
(文/鈴木未来)