もやもやレビュー

ある意味で感涙させる『ランボー者』

カップリング映画チラシ 吐きだめのヒーロー&ランボー者 マックス・リード監督 ロブ・ネッパー ロブ・コーブ監督 セーラ・ウォード
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『タイタニック』のパロディである『パイパニック』など、有名な作品をネタにしたAVは、秀逸なタイトルだったり内容が馬鹿馬鹿し過ぎたりして笑えるものが多い。しかし、それはあくまでパロディであるから面白味があるのであって、パクリ映画はクスリともしないどころか視聴していて憤死しかねない代物に溢れている。

 そうした作品の一つが本作『ランボー者』(ロバート・ボリス監督、1987年)だ。原題は『STEEL JUSTICE』となっていて『ランボー』(テッド・コッチェフ監督、1982年)のラの字もないのだが、邦題やジャケットは本家を意識したというより誤認させようという意図を感じさせる。公開から5年後に似せた配給会社は何を考えているのか理解に苦しむ。

 あらすじは、ベトナム戦争に従事し殺戮マシーンとして活躍した米軍兵士の主人公ジョン・スティールが南ベトナム兵のリーとともに戦争の地獄を過ごしてきた。ところが、味方のクワン中尉の裏切りに遭い危険にさらされることとなる。命からがら終戦を迎えたジョンとリーはともに米国へ渡り、リーは麻薬を取締る警部補となり幸福な家庭を築くが、ジョンは戦争のPTSDに悩まされ社会への疎外感に悩まされていた。
戦後、ベトナムマフィアのボスになった裏切者のクワンは米国へ麻薬を密輸し、事件を追っていたリーを殺害する。親友を殺害されたジョンは再び武器を取り復讐を果たす。

 戦争の記憶に苦しむベトナム帰還兵という時点で、お腹いっぱいである。『ランボー』は社会との隔絶ゆえに武器を取ったが、本作ではベトナム帰還兵という設定の必要性が低い。
 おまけにジョンとクワンの戦いは機関銃対刀。復讐劇というより単なる虐殺である。
「マフィアのボスが何で刀で戦うんだよ!」という疑問は、単純に当時の流行がマーシャルアーツだったことを思い出せば十分だ。何から何まで乗り掛かっている映画である。

 ここまでやり切ると清々しい気分になれるかと前向きに思案したが、アクションシーンさえグダグダで上映時間の97分があればもっと有意義なことができたのではないかと後悔の念に駆られる。おまけに『ランボー』との共通点がベトナム帰還兵という点しかなく「この部分をパロディにしているのか」という発見もない。そもそも、孤独なランボーと異なりジョンは家族に恵まれている。いよいよベトナム帰還兵という設定の意味が分からない。

「こういう映画はどこの間抜けが観るのだろう?」とつらつら考えた結果、ガッツリ視聴している筆者は配給会社の策に乗せられた一番の間抜けなのだろう。ある意味泣ける映画である。流れるのは血の涙だが。

(文/畑中雄也)

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