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フランス生まれの女子プロレス映画『ママはレスリング・クイーン』がまさかの日本公開! 世界的にもレア物件な題材を料理したルドニツキ監督に聞く

『ママはレスリング・クイーン』は、7月19日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国ロードショーです!

 年間数本どころか3年で1本あるかないかのプロレス映画。そんな中、久々に劇場公開される逸材が登場です。その作品とは、フランス映画、しかも世界的にも珍しい「女子プロレス」を題材にした『ママはレスリング・クイーン』。7月19日(土)から、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国ロードショーとなります。

 公開に先立ち、初来日したジャン=マルク・ルドニツキ監督にインタビューする機会を得たので、その内容を交えながら本作『ママレス』についてご紹介します。

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ジャン=マルク・ルドニツキ監督

WWEの世界規模の人気が、"プロレス不毛の地"フランスに新たなプロレス映画を誕生させた?

 ルチャ・リブレ(メキシコ流プロレス)選手が人気俳優並であるメキシコは別として、歴史的にプロレス産業が確立されているアメリカや日本でもプロレスを題材にした映画は数えるばかり。
 フランスのプロレス市場に至っては、ルドニツキ監督のお話によれば「派閥は複数あるものの、選手はセミプロレベル」なのだとか。確かに生粋のフランス人レスラーなんて、アンドレ・ザ・ジャイアント以外は知らんかも(活躍したのも日米プロレス界ですし)。
 ほぼ唯一といっていいフランス産プロレス映画である、1991年のジャン・レノ主演『グラン・マスクの男』もその舞台はフランス国内ではなく、メキシコだったりします。

 そんな"プロレス不毛の地"から何故にして新たなプロレス映画が生まれたのか。そもそも本作のルドニツキ監督自身、偏見すら抱いていたほどのアンチ・プロレス派だったそうな。もしや長編映画初監督仕事だから断れなかった? と思いきや、本作の舞台であり、監督自身の出身地でもある北フランスが、フランスにおけるプロレス発祥地だったという縁を知ってから、両親から観戦の思い出話を聞くなどして見識を改めたのだとか。本作の製作を進める過程でプロレスの面白さを知ることが出来たそうです。

 また、国内地場産業としては小規模ながら、世界最大のプロレス団体『WWE』の人気はフランスでも別格なのだとか。実はこの「WWE人気」こそが本作ストーリー上の取っ掛かり。

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 とあるワケありシングルマザーの女性が、WWEの話題にだけ興味を示す不仲の息子を喜ばせるため、地元のスポーツジムを訪れ、元人気レスラーだった管理人のオッサンに「プロレス教えて!」と懇願。オッサンは「仲間集めて4人で来い(どうせ無理やろ)」と追い払うも、職場の同僚を集めて本当に入門して来ちゃった......

 という感じに。加えて、WWEでは「ディーバ」と呼ばれる女性レスラーが多く活躍しており、本作の中でもヒロインたちが参考にする教材として、イベントや中継番組のシーンが登場します。
 大人の事情的には"WWE公式協賛"だからこそなのでしょうが、それでも本作が生まれた背景に"WWE人気"があったのは間違い無さそうです。


20代女子には出せないコク。三十路過ぎの女性が"新しい自分に変身"する面白さ

 女子プロレス映像作品は、世界的にも日本でしか聞いたことがありません(もしかするとメキシコにはあるかも)。もっといえばその多くが若い女性を扱ったもの。しかし本作は違います。年齢を重ねた女性ならではの、人生のコクがあります!

 ヒロインは、同じ職場(スーパー)で働く4人の女性。ある事情で里子に出していた息子との関係に悩むシングルマザーのローズ(マルリー・ベリ)。旦那の浮気と子どもの世話に疲れる主婦コレット(ナタリー・バイ)。自分を見失ったまま大人になった男狂いのジェシカ(オドレイ・フルーロ)。そして酷い容姿とひねた性格のせいで腫れもの扱いのヴィヴィアン(コリンヌ・マシエロ)。

 それぞれに人生の曲がり角を迎えていた女性たちが、当初は誘われて参加しただけだったプロレスに可能性を感じ、新しい自分を見出し、身も心も変身するというハートフル・スポ根コメディなのです。

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 ヒロインたちを三十路過ぎに設定したことについて監督は、「過去や今現在につまずきを抱える大人の女性たちがプロレスに挑戦し、新しい自分を見つけることが作品の醍醐味」と解説。これがもし若い女性なら「アクションだけの中身の無い作品になっていたかも」と断言。筆者はそういう作品も嫌いじゃいけど!
 ついでにキャストを男性にしなかったことについては「面白く無いと思いますよ」とのこと。昼はレジ打ちの男性パートが夜はプロレス!って、確かに普通というか......何か、凄く、物悲しい。監督、正解です。

 また、本作はキャスト本人が特訓を受けて、ほとんどの場面で自らアクションを演じているのも売り。作中の設定的にもあくまで"素人レスラー"ですが、クライマックスの特別興行でも、キャスト本人の身体能力に合わせたリアル・アクションに挑んでいます。
 また、ド派手な衣装と入場シーンも見ものです。特にフランス映画界の大女優ナタリー・バイ演じる「ワンダー・コレット」の入場シーンはインパクト大。プロレスの持つポジティブなパワーを魅せるべく、とにかく想像以上に三十路過ぎのキャストが頑張ってる作品なのです。


惚れた!「ヴィヴィアン」を演じる、まさにプロレスラー思考なコリンヌ・マシエロ

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中央がヴィヴィアン役のコリンヌ・マシエロ

 プロレスでのギミック(キャラクター)は、選手本人の人となりに大きく影響を受けることがあります。本作もそれは同様で、作中におけるコメディ・リリーフ「ヴィヴィアン」を演じたコリンヌ・マシエロはまさに好例。
 劇中では、スーパーの精肉コーナー担当で、ファッションはいかついゴシック・ロック系。言動も無茶苦茶で、シャツで脇汗を拭いてそれを嗅ぐなどオッサンみたいな行動を取るけど、本音では可憐な女性像に憧れているという強烈なキャラクターになっています。 このキャラクターの源は、彼女が下積み時代に路上パフォーマンスなどで培った、インプロヴィゼーション(即興性)を重視する感覚から生まれたアドリブなのだとか。他のキャストが静かに監督のシーン説明を聞く中、自ら演技提案をして撮影に臨んでいたそうですが、監督もそれを「ヴィヴィアン」の個性として認めて、そのまま使っているんですね。

 これこそ観客を前にパフォーマンスや試合をするプロレスラーに必須の素養。話によると本物のプロレスをやっていたこともあるそうで、まさに適役だったようです。

 ちなみにヴィヴィアンのニックネーム"キルビルート"は、映画『キル・ビル』と北フランスの方言「ビルート(男性器の愛称!)」を合わせたもの。色んな意味に取れますね......。


ルドニツキ監督が考える「クリシェとコメディ論」

 「大衆的な映画作りが理想」と言うルドニツキ監督。その言葉通り、本作はいわゆる「フランス映画」の小難しいイメージとは異なる、明朗なコメディに仕上がっています。監督自身の古典作品へのリスペクトや古典的コメディ表現へのこだわりがそうさせたのかもしれません。

 本作でも随所で見られる「クリシェ(お約束)」について伺ってみると、
「アンリ・ベルクソン(フランスの哲学者)が"何かが落ちることは笑いの起源だ"と言ったように、誰かが落ちたり転んだりするというのは、チャップリン作品の中でも使われている古典的手法ですね」
と、哲学的引用で古典作品に学んだことを明かし、さらに「コメディでの効果音は難しい。多過ぎると笑わせられないし、少な過ぎてもダメですよね」と、効果音の使い方にもこだわりを述べた監督。

 作中で犬が登場するシーンでは、犬のある行動に合わせたドラムロールや鳴き声を加えてコメディ色を加えてたり、監督自身が「アニメ的キャラクター」と位置づけるヴィヴィアンのシーンでは、『トムとジェリー』などのコメディアニメのような効果音をつけたりと、音の遊びをチョイチョイ入れています。

 "音"そのもの自体にもこだわりがあるようで、10代の頃に好きだったという70年代のアメリカの人気TVドラマ『600万ドルの男』のシーンからサンプルを採って本作に使用しているそうですよ。


本職『WWE』の映画スタジオによるリメイクも決定済

 本作はWWE公式協賛作品でもあり、WWEの子会社である映画スタジオ「WWE Studios」がリメイク権を買い取ったことでも注目されています。

 当然、ルドニツキ監督自身もWWEの本場であるアメリカ文化に合わせたリメイクになることを予想していますが、変えて欲しくない要素は「4人の女性が違う過去を持つことや彼女たちの年齢、そして最後の試合の結果」だと述べています。

 作品のテーマである「大人の女性の人生再生劇」がティーン・エイジャー映画になったら台無しですからね。


 そんなワケで、女子プロレス題材のフランス映画というレアものにして、女性向けのハートフル・コメディといった趣の本作ですが、オッサンなのにコク味のない人生を送る筆者でも存分に楽しめる作品となっており、特にヴィヴィアン(コリンヌ・マシエロ)については多くの方がファンになるやもしれません。

 ちなみにヴィヴィアンを主役にしたスピンオフ計画があるのか監督に聞いてみたら「あり得ます」とのこと! 実際に本作を観ればスピンオフを切望したくなる、かも!

(文/シングウヤスアキ)

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『ママはレスリング・クイーン』
7月19日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

監督:ジャン=マルク・ルドニツキ
出演:マリルー・ベリ、ナタリー・バイ、アンドレ・デュソリエ、オドレイ・フルーロ、コリンヌ・マシエロほか
配給:コムストック・グループ 
2013/フランス/97分

公式サイト:http://wrestlingqueen.com
©2013 KARE PRODUCTIONS - LA PETITE REINE - M6 FILMS - ORANGE STUDIO - CN2 PRODUCTION

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