「アバンギャルド夢子」や「スイートプールサイド」「漂流ネットカフェ」など多くの人気作を手掛けてきた漫画家の押見修造さん。なかでも「惡の華」は、2013年にテレビアニメ化し、累計240万部を突破する大ヒット作となりました。そんななか、7月14日からは南沙良さん、蒔田彩珠さんダブル主演で映画化となった『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』が全国公開となります。今回は、そんな押見さんに、映画のことや影響を受けた作品などについて語っていただきました!
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------本作には押見さん自身の体験も盛り込まれているそうですね。
押見さん(以下、敬称略) 主人公の高校一年生・志乃は、人前でうまく話ができない「吃音(きつおん)」に悩まされているのですが、実は僕自身も「吃音」なんです。自己紹介のときに名前を言おうとすると言葉が出なくなってしまう。すると相手の人は「大丈夫かな」と心配になると思うんですが、それがまた辛い。それが何回も続くと、なるべく人と会わないようにしようと引きこもりがちになるんです。でも、話すのはだめでも歌なら歌えたんです。「これは使えるぞ」と、そんな経験を志乃のキャラクターに投影していたり、歌にまつわるシーンを登場させたりしました。
------ストーリーは菊地を含めた同級生三人がメインとなって進んでいく青春ストーリーですね。
押見 単純に障害を乗り越えて祝福されて「やったー」というような話ではなく、コンプレックスや悩みを抱えながら、自分と向き合わざるをえないといった話にしたかったんです。とはいえ重い内容にはしたくなかった。また、原作では志乃個人に焦点を当てたんですが、映画では三人の群像劇というか三人の青春ストーリーという感じになっています。志乃は人前でうまく話ができずに悩みますが、加代も菊地もそれぞれ別の悩みを抱えています。青春期には誰にでも悩みがあると思うので、そういった部分で共感できるかなと思います。
------本作を執筆するにあたって、影響を受けた作品があればぜひ教えてください!
押見 僕の一番好きな映画でもあるんですが、『ゴーストワールド』(2001年/アメリカ)ですね。10代の女の子2人が主役の田舎が舞台の青春映画です。主人公の女の子は、毒舌を吐くような振る舞いをする子で、周囲と上手く馴染めない。まさに『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の下敷きになった作品です。こういった青春映画は割と好きなんです。
------確かに、押見さんの作品には思春期の人物が多く描かれている印象があります。青春映画は幼少期の頃から好きだったんでしょうか? また、最近印象に残った作品があればあわせて教えてください!
押見 子どもの頃は地元に映画館がなかったので、親が持っているビデオを観ていました。スピルバーグ作品は好きでしたが、それ以外はあまり印象に残る作品はなかったですね。大学に入って、東京に出てきてから映画館に行くようになったので、学生時代は映画は結構観ていました。最近は忙しくてあまり観られていないんですが、その中でも、ポール・バーホーベン監督、イザベル・ユペール主演の『エル ELLE』(2016年/フランス)が最近観たなかで衝撃を受けた作品です。主人公の女性がいきなりレイプされるんですが、そのことを警察に言わずに、自らその犯人に近付いていって同じような目にまた遭うといった内容です。かなり衝撃的でした。
------人間の"ブラック"な一面が描かれている作品は、印象に残りますよね。
押見 そうですね。『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』もそうですが、悩みとかコンプレックスって誰にでもあると思いますし、ブラックな部分ももちろんあると思います。もし僕が「吃音」じゃなかったら......毒舌もたいして吐かなかったかもしれないし(笑)、そうでなかったら漫画家になっていないかもしれません。そういう意味で自分と向き合っていけたら。そんなことが『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』から伝わればなと思います。良い思い出も悪い思い出も蘇ってくる、青春時代がフラッシュバックする作品になっていると思います。
(取材・文/小山田滝音)
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『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』
7月14日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:湯浅弘章
原作:押見修造「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(太田出版)
脚本:足立紳
出演:南沙良、蒔田彩珠、萩原利久ほか
配給:ビターズ・エンド
2018/日本映画/110分
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/shinochan/
©押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会