インタビュー
映画が好きです。

Vol.03 加瀬亮さん(俳優)

加瀬亮さんに聞く、『アウトレイジ ビヨンド』と 友達がいない人が元気になれるおすすめ映画!

 「何だ、この野郎!」だけで会話が成り立ってしまうという(笑)、凄まじい極悪非道世界が描かれたバイオレンスムービー『アウトレイジ』。その続編として、前作を凌ぐ大ヒットを飛ばした『アウトレイジ ビヨンド』が、ついにDVD&Blu-ray化! 前作から5年後のヤクザ社会を舞台に、巨大暴力団組織の内部抗争を描いた本作。極悪野郎どもの裏切り、駆け引きなどの心理戦がヤバイ、面白い! 前作で、禁じ手の裏切り作戦により巨大暴力団組織「山王会」のナンバー2に上り詰めた若頭・石原演じる加瀬亮さんに、作品のことをうかがいました。

──ビヨンドの石原は、めちゃくちゃ怒鳴ってますね。

「台本をもらった時に、ずいぶんとキャラクターが変わっていたので、最初は悩みながら始めました。北野監督は演技に関してほんとに何もおっしゃらない方なのですが、撮影初日、僕はわりと前作のような静かな感じで始めたところ、"そうじゃなくて最初から怒鳴って欲しい"と指示を受けて。その監督の言葉をきっかけに、考えていった感じですね。なんでこんなに叫ぶ人になったのかなって。

やっぱりナンバー2の器じゃなかった、ポジションが上がることで重荷を抱えてしまった人の不安......そういうものに行き当たって、ビヨンドの石原がようやく見えてきたという感じです。ただ、こういう役を演じること自体に不安がありました。1作目は監督が割と僕自身のヤクザっぽくない雰囲気に近づけてくれて(『アウトレイジ』の石原は、英語堪能なインテリヤクザ)、静かに演じられるようにしていただいたので何とかやれましたが、ビヨンドの時はちょっと大変でしたね(笑)」

──普段は怒鳴ることが全くないそうですが、どうやって怒鳴りを引き出していったんですか?

「自分の外見がこうだから、ヤクザの役を演じる機会が持てるとも思ってなかったですし。だから演じるのは最初から不安だらけ。そういう自分自身の役を演じる不安感。そこに役を重ねていった部分はありますね。でも、やってみたら必然と、ああなってしまったというのが正直なところです」

──怒鳴ることに快感を感じてしまったりしましたか?

「全然、そこまでいけませんでしたね。変な言い方ですが、先輩たちのシーンを観ていて、自分もちゃんと怒鳴れるようになりたいなと思いました(笑)。今回は監督とスタッフに、ほとんど・・・8〜9割ぐらい作ってもらったようなもので。やっぱり結論としては、ヤクザには向いてないなって思いましたけどね(笑)」

──ご自身の役柄以外で好きなキャラクターはいますか?

「桐谷くんのキャラクターは、すごい好きでしたね。あの軽さがおかしくて(笑)」

──加瀬さんが思う、北野映画の良さは?

「監督はいろんなことに挑戦されていますが、基本的には渇いた感覚を持っている方だと思っています。そこがすごく、生理的に好きですね。たぶんほんとはすごく愛情深い人だからこそ、それに対する照れのようなものがあって、逆にどんどん渇いた感じになっているのだと思うんです。僕自身も、湿っぽいものよりも、渇いたものの方が好きですね」

──ところで加瀬さんは、友達は多い方ですか?

「そんなに多くはないと思いますけど(笑)」

──友達がいない人が元気になれる映画、ぜひお勧めしてください。

「エドワード・ヤン監督の『嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は当てはまると思います。ひとりの青年が、ひとりの女の子を殺すまでの話で、実際に台湾であった事件を元にしています。すごく純粋な青年の闇が、丹念に描かれていて、僕自身すごく好きな映画です。初めて観た単館系の映画でもあります。あとは・・・殺人事件ばかりになってしまってアレですが、連続殺人鬼を題材にした『ゾディアック』と、ベン・アフレックが初めて監督した作品で『ゴーン・ベイビー・ゴーン』。個人的な興味としても、殺人課の刑事や探偵に惹かれるんですよね。もちろん演じる役柄としても。弱さも含め、人の心の闇のようなものは気になります」

──ビヨンドの石原も闇を抱えてしまっているのでしょうか。

「ビヨンドの石原は、かわいい人とは言いませんが、割とまっすぐな存在だったのではないかと思うんです。三浦友和さん演じる加藤に忠誠を誓っていて、仕事を全うしようとしているだけというか。前作では悪そうに企んでいましたけどね」

前作では、たぶん古い体制に対して強烈な違和感があって、本人も喧嘩が強いタイプじゃないですから、もっと合理的にできるんじゃないかって思っていた。それを理解してくれた加藤会長がいて、意気投合し裏切り作戦をしたわけじゃないですか。そして今作では、ある意味自分の理想・・・とまではいかないかもしれませんが、それに近いような新しい体制で始めたはずだったのに、結局はヤクザのしきたりのようなものに飲まれてしまったという感じですよね」

──ちなみに加瀬さんは、ご自身の映画を劇場に観に行くことはあるんですか?

「自分が出ている映画を劇場に観に行ったことはないですね。照れくさいですから(笑)。『アウトレイジ ビヨンド』も劇場には観に行っていません。ただ、自分が出ている映画以外は観に行きますよ。なるべくなら映画は劇場で観たいと思っています。ユーロスペースに行くことが多いですが、ジャンルはあまり関係なく観ています。今年に入ってからはまだ劇場に行けていませんが、去年はイメージ・フォーラムで観たフィリップ・ガレルの作品が印象に残っています。今観たいのは、『ライフ・オブ・パイ』ですね(※取材時2月7日現在です)」

──最後に、『アウトレイジ ビヨンド』、どんな風に観て欲しいですか?

「もちろんひとりで観るのもいいと思いますが、何人かで観た方が喜劇性が立ち上ってきて楽しめるかなと思います。つっこみながら観るとか。『アウトレイジ ビヨンド』は、ヤクザの世界の話なので極端ではありますが、いろんな場所に当てはまる人間関係が描かれていると思っています。会社でも部活でも、日本のいたるところに当てはまると思うんです。ほんとは当てはまって欲しくないですけどね(笑)。石原的な見所? そうですね・・・小日向さんを殴るシーンで、すぐ部下に取り押さえられるんですが、そこが弱そうでいいなと思いました(笑)」


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極道社会の壮絶な下克上を描いた『アウトレイジ』の、5年後を描いた続編『アウトレイジ ビヨンド』。極悪非道なヤクザたちの裏切り、駆け引きなどの心理戦を中心に据えて巨大暴力団組織の内部抗争、ヤクザ壊滅作戦×関東VS関西の巨大抗争を描き、前作を凌ぐ大ヒットを記録した傑作。



写真/金谷浩次、文/根本美保子、スタイリング/梶雄太、ヘアメイク/宮田靖士

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加瀬亮(かせ・りょう)

1974年神奈川県生まれ。『五条霊戦記』(00)で映画デビュー。以降、精力的に映画作品に関わり、『アンテナ』(04)、『スクラップ・ヘブン』(05)、『ハチミツとクローバー』(06)、『めがね』(07)、『それでもボクはやってない』(07)、『ぐるりのこと』(08)、『グーグーだって猫である』(08)、『プール』(09)、『重力ピエロ』(09)、『おとうと』(10)、『海炭市叙景』(10)、『東京オアシス』(11)、『劇場版SPEC〜天〜』(12)など出演作多数。クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』(06)、ミシェル・ゴンドリー監督『TOKYO!』(08)、ガス・ヴァン・サント監督『永遠の僕たち』(11)、アッバス・キアロスタミ監督『Like someone in love(原題)』(12)など、海外の有名映画監督との仕事も数多く経験している。

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監督/北野武
出演/ビートたけし、西田敏行、三浦友和、加瀬亮ほか

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