連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第104回『クイーン・コング』

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『クイーン・コング』
1976年製作(イギリス、イタリア)
2001年日本公開・85分
監督/フランク・アグラマ
脚本/フランク・アグラマ、ロナルド・ドブリン
出演/ロビン・アスクウィズ、ルーラ・レンスカほか

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 元祖『キング・コング』(33年)の亜流映画は相当数作られていて、中でも珍品なのがありそうでなかった雌のコング『クイーン・コング』。だが作品は製作から25年後、しかも日本で初公開されたのは驚きだ。その経緯は後述するとして、まずは作品のアメージングな内容を解説しよう。ちなみに日本公開版は日本語吹替で上映された。


 主演男優を探していた女性映画監督ルース(ルーラ・レンスカ)は、ロンドンでリンゴ飴や『キング・コング』のポスターを万引きするヒッピーのレイ・フェイ(ロビン・アスクウィズ)をスカウトする。これは『キング・コング』でリンゴを盗んだヒロイン、アン・ダロウのパロディだが、演じたフェイ・レイの名前を逆にして性別も男に変えたのだ。

 レイは笑顔になるたび歯がエフェクトで輝き、「カキーン」「キラーン」と台詞が入る。これは「シッチャカメッチャカ」など天才的なアドリブやダジャレで一世を風靡した声優界のレジェンド広川太一郎によるもので、ここでも「ノーコメント、気持ちを込めんと」「何てこった、パンナコッタ」などと広川節は健在だ。そしてルースの声はドロンジョ様やのび太でお馴染みの小原乃梨子。この両名を抜擢した配給会社アルバトロスのグッジョブだ。

 ルースはクルー全員がノーブラTシャツでナマ脚出したモデル並みの美女という「自由の女性号」にレイを乗せ、アフリカへ出航する。クルー達は「ブラなんか捨てて出航よ♪」と歌って踊り、雇った現地ガイドの女性達3人も「ウンガウンガ、ブンガ、コングコングコング♪」と踊り狂う。アフリカに着いたレイは原住民に掴まり、立派なオッパイを持つクイーン・コングの生贄にされる。クイーン・コングは一目ぼれしたレイを守るため、ヨタヨタした頭デッカチの恐竜小学生が作ったような翼竜と戦いを繰り広げる。

 ルースはクイーン・コングをガス弾で眠らせ、巨大なイカダでロンドンに運ぶ。クイーン・コングの見世物会場には、エリザベス女王のソックリさんも御来場だ。ゲスな興行師はクイーン・コングに鎖製のブラとパンツを装着し、ルースから「女性差別!」と非難される。やがてお披露目のセレモニーが始まり、バンドの演奏に合わせながら「ヘッチャカ、ハッチャカ、フッチャカチャ、いつまでやらせるピッチャカチャ」と、ステージにレイが広川節で登場する。だがルースが突如婚約発表してレイに濃厚なキスをする。それを見たクイーン・コングが泣き出し、ブラを引き千切って会場から出ていきロンドン市内はパニックとなる。

 やがてクイーン・コングに掴まったレイが「残念だね、ロンドンにはエンパイア・ステート・ビルがなくて。そうだ、ビッグベンに登ろうよ! 大きい便で決まりだ。気張っていこう!」(後半は広川のアドリブだろう)。ビッグベンに登ったクイーン・コングをイギリス空軍の戦闘機が攻撃すると、レイが拡声器で呼びかける。「女は型にハメられ、横暴な男の欲望を満たすため犠牲になっている。コングこそは女たちの代表。女をメイドや売春婦のように扱う男性社会で困難な戦いを続ける女たちのシンボルなんだ! コングへの虐待は、全女性への虐待だ! 全世界の女性諸君、今こそ自由と解放を勝ち取るべきだあ~!」。

 これまでのオフザケが消え、作品のテーマが集約された驚愕のクライマックス。この様子は全英にテレビ中継され、共感した女性たちがビックベンに集結し「クイーン・コングを救え」とシュプレヒ・コール。その中には、ニセ・エリザベス女王の姿も(笑)。そしてクイーン・コングはレイと共に、故郷のジャングルへと帰っていく。


 クイーン・コングがウーマンリブ(女性解放)運動の象徴として描かれた驚くべき怪獣映画だったのだが、実は当時モンスター映画の老舗ユニバーサルも『キング・コング』のリメイクを進めていた。だがジョン・ギラーミン監督で『キングコング』を製作したパラマウントには世界最強プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスが就いていた。両社は係争となり、パラマウントの作品公開から18か月後でないと公開できないという判決が下り、ユニバーサル社はコングから手を引いたのだ。一方パチモノ大国イタリアのフランク・アグラマ監督は、先に『クイーン・コング』を完成させていた。パラマウントの『キングコング』に便乗して公開する目論見だったのだ。

 こうしたアグラマ監督のセコイ陰謀を事前にキャッチしていたラウレンティスは、『クイーン・コング』の動向に目を光らせ潰す構えでいた。だがイタリア司法は作品をパロディ映画として認可、零細企業が最大手に勝ってしまったのだ。ところがメンタルのおかしいアグラマ以外の凡人スタッフらは全員ラウレンティスの圧力を恐れ、結局公開は見送られた。それから25年、アルバトロスが行方不明になっていたフィルムを執念で見つけ出し公開に踏み切ったのだ。

 上映会場は、惜しまれて閉館した渋谷パルコPART3のシネクイント。2001年9月22日の上映初日、筆者は封印が解けた歴史的瞬間を目撃した。上映前に行われた広川太一郎と小原乃梨子による爆笑トークも最高だった。映画はコケタけど(笑)。それにしても、あれだけ模倣映画に対して憎悪を燃やしていたラウレンティス親分、『キングコング2』(86年)でちゃっかり雌コングを出したが、裁判に負けた腹イセだったのだろうか(笑)。

(文/天野ミチヒロ)

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おまけ

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メディコム・トイのソフビ。ジャングル・バージョンとロンドン・バージョン。(筆者所蔵)


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いつもながら気の利いたアルバトロスのマスコミ試写状!(筆者所蔵)


94162.jpg
サントラ・ソノシートまで作っちゃったりして。(筆者所蔵)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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