高尾紳路名人のユーモアが炸裂したNHK杯戦

左/許家元四段、右/高尾紳路名人 撮影:小松士郎
第65回NHK杯2回戦 第2局は、許家元(きょ・かげん)四段(黒)と高尾紳路(たかお・しんじ)名人(白)の対戦となった。佐藤康夫さんの観戦記から、序盤の展開をお伝えする。
(本文中の肩書・段位は放送時のものです)

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■名人の貫禄を示したい対戦

高尾紳路名人はさまざまなイベントでスピーチをする機会が多い。真面目な表情と語り口なのだが、内容はユーモアたっぷりである。対局前のマイクテストで「きょうの昼食は?」と問われ、「豚キムチ丼でした」と即答してスタジオ一同の爆笑を誘った。将棋の藤井聡太四段フィーバーでの“勝負メシ”をもじったものだろう。囲碁界では対局前にしっかり食べる棋士はほとんどいない。
1回戦で、出場3回目にして初勝利を挙げた許家元四段だが、目標は頂点制覇であることは間違いない。伊田篤史八段、一力遼七段らライバルたちのNHK杯での活躍を見て、このまま黙っているわけにはいかないだろう。すでに他の早碁棋戦で実績を残している。
解説の羽根直樹九段は「対戦成績は許四段が2勝で、名人としてはそろそろ貫禄を示しておかなければいけませんね。許四段の先行を高尾名人が追い込む碁になるでしょう」と見どころを語った。

■穏やかな序盤

黒9のカカリからすぐに黒11と三々に入るのは現代的手法で、このあとの研究も進み、今や定石化されている。

白18ではAとツケて上辺を止め、黒B、白C、黒D、白E、黒18のヒラキまでがよく打たれている進行である。単に白18と左辺を占めれば黒19は当然の一手。
白20のツメに許家元四段は即座に黒21と打ち込んで戦端を開いた。白22から黒25までトビ合ったあと、高尾紳路名人は白26と下ツケするサバキに出た。1図、黒1とハネ出せば、白2から黒7までのワカレとなる。黒は実利を得たものの 二子の働きが乏しくなる。

 


羽根直樹九段「(2図)素朴に黒1とノゾく手があります。次にaとbが見合いです。高尾名人がどういうサバキを用意していたのか、見てみたかったですね」

名人に敬意を表して( ? ) 許が黒27から31と右辺に転じたので、白は32と左辺に手を戻して不安を解消した。白36のボウシに黒37のツケは強硬な態度だが、高尾は白38から42まで穏やかに事を運んだ。この白一団が厚みとして働くか、逆に黒からの攻撃目標となるかが、これからのポイントである。
■『NHK囲碁講座』2017年10月号より

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