伊藤かりんのフォーカスダービー観戦記
- 「初めての観戦記が、お二人の対局になるなんてドキドキします」とかりんさん。撮影:河井邦彦
「将棋フォーカス」の総合司会・乃木坂46の伊藤かりんさんが、山崎隆之八段×中村太地六段の対局収録スタジオにやってきました。ここからは、かりんさんの観戦記をご覧ください。
* * *
■対局前の緊張感
私の知っているお二人ではありませんでした。将棋フォーカスのMCをご一緒させていただいてから早3年目になりました。山崎先生はいつもニコニコしていてとても優しい方です。太地先生は紳士でとても明るい方です。いつも将棋フォーカスの現場の雰囲気を明るくしてくださるお二人ですが、この日はご挨拶したときから違いました。山崎先生の声がいつもより小さく、対局者のオーラのような重たい空気を感じました。とはいっても、想像していたよりは和やかでした。タイムリーな話題である藤井聡太先生の扇子が売り切れで手に入らない話など少し談笑もありました。しかし時間が経(た)つにつれ、山崎先生は腕を組んで瞑想(めいそう)され、太地先生は何度も上を見上げて考えごとをし、ふだんは見ない険しい表情をされ、お二人ともどんどん対局モードになり、それにともない控え室の緊張感も高まっているように感じました。正直、私はいつもと違うお二人に緊張しましたし、控え室から出たいと思ってしまうほどでした。
いよいよ時間になり振り駒の結果、太地先生が先手となりました。終局後にこのときのことをお伺いしたところ山崎先生は先手番の作戦しか固まっていなかったそうです。そのこともあってか、対局直前はずっと目を閉じていらっしゃったので後手番の作戦を考えられていたのでしょうか。
■気合いの和服
解説の森内先生はお二人の棋風を太地先生は安定している、山崎先生は自由で独創的な将棋、(2人が)ずいぶん違う棋風とされ、「どちらが自分のペースに持ち込めるか」と語られていました。さらにこの日はお二人とも和服で、森内先生は「棋士が気合いが入っているときに和服は着る」ともおっしゃっていました。ちなみにNHK杯で両者和服での対局は2008年の佐藤康光先生×鈴木大介先生以来とのこと。
その気合いを表すかのような対局でした。序盤から定跡にとらわれない山崎先生の将棋に真っ向から戦う太地先生。攻め合いをされていて、すごい将棋というのは感じましたが、私には正直対局の優劣は分からず、ただただ見ていました。終盤に近づくと山崎先生は頰づえをつき身体を揺らし、太地先生はただじっと盤面を見ていました。そして86手目の△5六桂以降、山崎先生の姿勢が良くなりスッとした表情になったのを見て、山崎先生の中で勝負が決まったように感じました。その後、太地先生は額を拭い最後まで戦われていましたが、108手までにて山崎先生の勝ちとなりました。
■対局後はいつものお二人
感想戦になると対局前とは違い、山崎先生はいつもの山崎先生になっていて少し安心しました。太地先生は感想戦のときは口数が少なく感じましたが、対局後お話しさせていただいた際は落ち込んでいるようには感じましたが明るく優しい太地先生でした。
今回初めて間近で対局を見させていただき、「プロ棋士」というもののすごさを肌で感じました。優しいお二人の目が変わり、空気が変わり、まるで別人になる。「プロ棋士」として本気で戦うお二人はとてもカッコよくて、間近で見られたことはとても光栄に思います。こんな素敵(すてき)な戦いが“将棋”にはたくさんあります。一将棋ファンとして、そして将棋フォーカスMCとして、もっともっとたくさんの人に伝えていきたいなと改めて感じました。
■『NHK将棋講座』2017年9月号より
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■対局前の緊張感
私の知っているお二人ではありませんでした。将棋フォーカスのMCをご一緒させていただいてから早3年目になりました。山崎先生はいつもニコニコしていてとても優しい方です。太地先生は紳士でとても明るい方です。いつも将棋フォーカスの現場の雰囲気を明るくしてくださるお二人ですが、この日はご挨拶したときから違いました。山崎先生の声がいつもより小さく、対局者のオーラのような重たい空気を感じました。とはいっても、想像していたよりは和やかでした。タイムリーな話題である藤井聡太先生の扇子が売り切れで手に入らない話など少し談笑もありました。しかし時間が経(た)つにつれ、山崎先生は腕を組んで瞑想(めいそう)され、太地先生は何度も上を見上げて考えごとをし、ふだんは見ない険しい表情をされ、お二人ともどんどん対局モードになり、それにともない控え室の緊張感も高まっているように感じました。正直、私はいつもと違うお二人に緊張しましたし、控え室から出たいと思ってしまうほどでした。
いよいよ時間になり振り駒の結果、太地先生が先手となりました。終局後にこのときのことをお伺いしたところ山崎先生は先手番の作戦しか固まっていなかったそうです。そのこともあってか、対局直前はずっと目を閉じていらっしゃったので後手番の作戦を考えられていたのでしょうか。
■気合いの和服
解説の森内先生はお二人の棋風を太地先生は安定している、山崎先生は自由で独創的な将棋、(2人が)ずいぶん違う棋風とされ、「どちらが自分のペースに持ち込めるか」と語られていました。さらにこの日はお二人とも和服で、森内先生は「棋士が気合いが入っているときに和服は着る」ともおっしゃっていました。ちなみにNHK杯で両者和服での対局は2008年の佐藤康光先生×鈴木大介先生以来とのこと。
その気合いを表すかのような対局でした。序盤から定跡にとらわれない山崎先生の将棋に真っ向から戦う太地先生。攻め合いをされていて、すごい将棋というのは感じましたが、私には正直対局の優劣は分からず、ただただ見ていました。終盤に近づくと山崎先生は頰づえをつき身体を揺らし、太地先生はただじっと盤面を見ていました。そして86手目の△5六桂以降、山崎先生の姿勢が良くなりスッとした表情になったのを見て、山崎先生の中で勝負が決まったように感じました。その後、太地先生は額を拭い最後まで戦われていましたが、108手までにて山崎先生の勝ちとなりました。
■対局後はいつものお二人
感想戦になると対局前とは違い、山崎先生はいつもの山崎先生になっていて少し安心しました。太地先生は感想戦のときは口数が少なく感じましたが、対局後お話しさせていただいた際は落ち込んでいるようには感じましたが明るく優しい太地先生でした。
今回初めて間近で対局を見させていただき、「プロ棋士」というもののすごさを肌で感じました。優しいお二人の目が変わり、空気が変わり、まるで別人になる。「プロ棋士」として本気で戦うお二人はとてもカッコよくて、間近で見られたことはとても光栄に思います。こんな素敵(すてき)な戦いが“将棋”にはたくさんあります。一将棋ファンとして、そして将棋フォーカスMCとして、もっともっとたくさんの人に伝えていきたいなと改めて感じました。
■『NHK将棋講座』2017年9月号より
- 『NHK将棋講座 2017年9月号 [雑誌] (NHKテキスト)』
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