井山裕太棋聖、悲願のNHK杯初優勝

左/一力遼七段、右/井山裕太棋聖。撮影:小松士郎
4年ぶりにNHK杯テレビ囲碁トーナメント決勝の舞台に勝ち上がってきた、絶対王者・井山裕太(いやま・ゆうた)棋聖。タイトルを総なめにしてきたようだが、あと一つ、NHK杯にだけは手が届いていない。対するは2年前の準優勝者で、史上最年少優勝を狙う19歳・一力遼(いちりき・りょう)七段。対局は、予想どおりの大熱戦となった。
(本文中の肩書・段位は放送時のものです)

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■頂上決戦!

第64回NHK杯テレビ囲碁トーナメントの決勝に勝ち上がったのは、いずれも準優勝経験者である井山裕太棋聖と一力遼七段だ。
井山は、若手の注目株・余正麒七段、昨年のNHK杯で井山の連勝を24でストップさせた河野臨九段、そして2年前のNHK杯覇者・伊田篤史八段を破っての決勝進出。対する一力の充実ぶりには目を見張るものがある。高尾紳路名人、山下敬吾九段、張栩NHK杯と、平成四天王を3人打ち破って決勝進出を果たしたのだ。囲碁界注目の一戦、27歳にしてベテランの域に達した井山に、19歳の一力がどのように立ち向かうのか。

■井山の攻め対一力のシノギ

一力の黒番で始まった決戦は、予想に反して落ち着いた布石でスタートした。しかし20手を過ぎたあたりから、白番の井山が徐々に攻勢をかける。30手を過ぎると、井山の攻めに一力のシノギという構図が固まった。
解説の小林光一名誉棋聖が「虚々実々」と何度も口にするように、お互いに相手の意図を外す深い読みの入った手を連発し、難解な戦いが続く。控え室で検討していた今村俊也九段をはじめとする棋士陣も、じっと見守るしかない。
黒のシノギがなかなか見えないと思われたが、一力は何とかシノギ形を得て、今度は白への逆襲を狙う。お互いに30秒の秒読みに追われる中、白も無事にすべての石が治まり、大ヨセに突入するかと思われたが、井山が黒地を巧みに削減することに成功。一力は最後の最後まで粘ったが、184手で井山が中押し勝ちを収めた。頂点を目指すには、ここまで戦い抜く必要があるのか、と改めて勝負の厳しさを思い知らされた一戦であった。

■テレビ囲碁アジア選手権に期待!

対局後、両対局者が「二人で出場できるのは、大変心強い」と口をそろえたテレビ囲碁アジア選手権は、今年中国で開催される予定だ。現在、世界を相手に対等に戦えるのは、世界戦で優勝経験のある井山(2013年テレビ囲碁アジア選手権優勝)、一力(14年世界囲碁U-20優勝)をおいていないであろう。両雄の戦いぶりが、今から楽しみでならない。
文:丹野憲一
■『NHK囲碁講座』2017年5月号より

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