渡辺 明棋王VS.サッカー元日本代表・小村徳男さんの異色対局

写真:藤田浩司
近年盛り上がりを見せている、将棋とサッカーによるコラボイベント。第49回東急将棋まつりでは、渡辺 明棋王対サッカー元日本代表・小村徳男さんという異色の席上対局が実現した。本稿では、いしかわ ごうさんの観戦記より、解説の野月浩貴七段が「ここまでは百点ですね」と評価した小村さんの攻撃が光る序盤の展開を紹介する。

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渡辺明棋王といえば、サッカー審判の資格を持ち、今年には将棋連盟フットサル部を立ち上げるなど、知る人ぞ知るサッカーファンである。対する小村さんは、1998年のフランスワールドカップにも出場経験のあるサッカー元日本代表ディフェンダーだ。将棋親善大使である波戸康広さんとは横浜F・マリノス時代の同僚で、実力は有段者クラス。棋風は圧倒的な攻め将棋だという。
手合いは渡辺の飛車落ち。持ち時間は両者15分の予定だったが、控え室での話し合いにより急遽(きゅうきょ)変更。渡辺の持ち時間を10分減らして5分に、小村の持ち時間を10分増やして25分にするというハンデ戦となった(持ち時間を使い切ると1手30秒の秒読み)。

■意外な因縁

実は両者には、少なからぬ因縁(?)がある。2か月前、渡辺の主催する将棋連盟フットサル部の特別ゲストに招いたのが小村と波戸だったのだ。フットサル中では渡辺対小村のマッチアップも実現したが、「ディフェンスでは手を使われましたよ」と渡辺はプロの技術に完敗。だが打ち上げの指導対局では渡辺が小村を負かしている。そのため小村はこの席上対局でのリベンジにひそかに闘志を燃やしていたのだ。
小村は、飛車落ちの定跡ともいえる右四間飛車を採用。駒組みを進め、囲いを作る序盤だ。「フォーメーションをしっかりと作っている段階ですね」と、解説の将棋界随一のサッカーファン・野月浩貴七段がサッカーに例えて説明すると、聞き手の波戸も「ビルドアップしながら、リズムを作っています」と掛け合いをする。

1図の▲4五歩で駒がぶつかり、戦いが始まった。▲4四歩から▲5六桂と援軍を送り、守りの要である金銀3枚の連係を分断する。小村の攻撃がさえる展開に「ここまでは百点ですね」と野月も絶賛。渡辺は△5五角(2図)から反撃。▲4四馬△同金▲同飛と走られる手を防ぎつつ、香取りを狙った攻防手だ。

※投了までの記譜と観戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK将棋講座』2015年11月号より

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