「“最年長”はステータス」──淡路修三九段の飽くなき挑戦

撮影:小松士郎
33歳のときに碁聖戦で挑戦者となり、立て続けに天元戦、本因坊戦の挑戦権を得た淡路修三(あわじ・しゅうぞう)九段。七番勝負の舞台はすべての棋士が憧れる最高のひのき舞台。当時の心境、そして“最年長”の肩書がつくリーグ戦を戦うことが多くなってきた現在とこれからについて聞いた。

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二日制対局が想像以上に疲れるものであるということを、身をもって知りました。一日制の3日分か4日分の疲労があったものです。まあ打ち掛けの夜は眠ることができませんでしたから、当然と言えば当然ですが…。当時の本因坊だった林海峰先生は私が最も尊敬する棋士でしたから、こんなにうれしいことはありませんでした。
結局1勝4敗で負かされ、まわしに手が掛からなかったのですが、ある対局で私の部屋の上が林先生の部屋だったことがありました。打ち掛けの晩に私が眠れずにもんもんとしていると、上の部屋でノシノシと歩き回る音がするのです。「ああ、林先生でも眠れないんだな」と、何となくホッとした記憶があります。
それにしても林先生の懐の深さには、完全に脱帽でした。勝てるかもしれないと思った瞬間はあっても、どこかで必ず逆転されてしまうのです。「二枚腰」が林先生のニックネームでしたが、まさにそういった感じを受けました。
この5年後、今度は名人戦で小林光一さんに挑戦する機会を得ることができました。ですがこのシリーズも結果は1勝4敗。ロンドンで行われた開幕戦には勝つことができたのですが、その後に4連敗で負かされてしまったのです。
この七番勝負で感じたのは、小林さんの持つ盤上だけではなく体全体からにじみ出てくる迫力でした。第2局で負けて1勝1敗となった時点で私は「もう駄目だ」と思ってしまったのですが、これは私が小林さんに、そのように思わされてしまったというのが、正しい表現であるように思います。
具体的にもいろいろなことがあったのですが、例えば封じ手。小林さんも私も、「封じたくない」と考えていたのですが、たまにはあちらに封じてもらおうと、規定時間の5分前に着手したことがありました。すると小林さんはすぐに打ち返してきて「絶対にそっちが封じろ!」という気迫を出してきたのです。それで結局、シリーズの全5局を私が封じることになったのですが、「やっぱり超一流の人は違うなぁ」と感じました。
勝負の世界で生きる者としては、とても大切なこと、それを実行できる小林さんを尊敬せざるをえませんでした。一方で、それを許してしまう自分の甘さを痛感したものです。

■「最年長」はステータス

3年前に棋聖戦リーグ入りして、久しぶりにリーグ戦の舞台に復帰しました。現在の自分がどれくらいのものなのかを知りたいということもあり、とても力を入れて対局に臨んだのですが、結果は2勝3敗でのリーグ陥落でした。
でも初戦の井山裕太さんに半目負けだった碁は、自分としてはかなりよく打てた内容だったと思っていますし、全5局に関してはまずまず満足しています。
そしてこのリーグに参戦していた12人(6人を二つのリーグに分けていた)の中で私は最年長だったのですが、この「最年長」、いい肩書だったと思っています。この年でも頑張っているということですからね。
今後もこの肩書がついてくることが多くなるのでしょうが、逆にステータスなのだというくらいの気持ちでやっていければと思っています。
■『NHK囲碁講座』2015年8月号より

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