河野 臨九段、「あと一歩」が多かった2014年を語る

河野 臨九段 撮影:小松士郎
天元3連覇や各早碁棋戦での優勝により、平成四天王に次ぐ「第五の男」としての地位を完全に確立した河野臨(こうの・りん)九段。国際棋戦でも日本チームのポイントゲッターとして多くの白星を上げてきたことで、中国や韓国からの評価も最上級であることが、その実力のほどを証明している。
34歳となり、中堅の域にさしかかってきたが、2014年はNHK杯準優勝、碁聖挑戦、竜星戦優勝、テレビ囲碁アジア選手権準優勝、早碁オープン戦準優勝、名人挑戦と、一年を通じて主役の座に座り続けた。
しかしこの結果からも明らかなように、あと一歩のところで大魚を逃し続けていることも事実である。この点について話を聞いた。

* * *

昨年は僕が棋士になって以来、最も局数が多かった年になりました。大きな舞台もたくさん経験することができ、本当にいろいろなものを得ることができた一年だったと思います。
ただ、優勝できたのは早碁の竜星戦だけで、NHK杯、碁聖戦、テレビ囲碁アジア選手権、早碁オープン戦、名人戦と、ことごとく準優勝だったり、ビッグタイトルに手が届かなかったのは残念でなりません。すべては自分の力不足が原因なのですが…。
碁聖戦はスコアの上では2勝3敗と接戦でしたが「第一人者の強さを改めて思い知った」というのが本音です。
確かに最終局は、チャンスがあったと思います。きっ抗した形勢ながら「僅かに苦しい」と思っていた場面で、井山さんが何年に一度しかやらないような大ポカをしてしまい、僕が優勢となりました。
しかしこの碁を勝てなかったのは、僕がヘタだからです。井山さんのミスの直後、僕もおつきあいするかのようなミスをしてしまい、すぐにまたひっくり返されてしまいました。
決して油断したつもりはないのですが、井山さん相手だと「これで勝ちになった」とはなかなか思えない──こういう心理状態にさせてしまうところが、井山さんの強さと言えるのではないでしょうか。はた目から見たら「惜しかった」となるのかもしれませんが、僕自身の中では「必然の負けだった」と思っています。
この碁聖戦の第3局と第4局の間にテレビ囲碁アジア選手権が中国で行われました。「日本の皆さんに喜んでもらえる結果を出したい」と思って臨みましたので、準優勝という結果はちょっと残念です。
棋士になったときから「世界戦で優勝」という思いは持ち続けてきたので、あと一歩だったわけですが、これもやはり自分の実力──決勝まで行けたことで「自分も世界の舞台でそれなりにやれるのかな」という手応えもつかんだので、また世界戦に挑戦するチャンスをもらったときは頑張りたいと思います。
中国や韓国には若くて強い棋士が数え切れないほど多くいるので、結果を出すのは本当に大変なことですが、今回のテレビ囲碁アジア選手権準優勝で、少し自信がつきました。
9月に名人戦七番勝負が開幕し、第3局と第4局の間には竜星戦の決勝がありました。関西棋院の新鋭・余正麒七段との一戦でしたが、幸いにも勝つことができ、昨年における唯一の優勝──一年を終わってみれば「ここを勝てて本当によかった」ということになりました。
僕は昔から早碁棋戦との相性がよく(この竜星戦で早碁棋戦5回目の優勝)、これは若いころから「少ない時間でそれなりの手が打てるように」という勉強をしてきたことが一因となっているのかなという気はしています。
■『NHK囲碁講座』2015年5月号より

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