碁も強くてモテた石田章九段……趙治勲二十五世本因坊の恨み節

イラスト:石井里果
テキスト『NHK 囲碁講座』の人気連載「二十五世本因坊治勲のちょっといい碁の話」も新年度に突入しました。今月からは趙治勲二十五世本因坊が忘れることができない、ちょっと苦い思い出を作ってくれた棋士を紹介していきます。

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初めは石田章(九段)さん。ぼくよりも6つか7つ年上で、入段は2年ほど早かった。今でも覚えていますが、初めての石田さんとの手合は、完膚なきまでにやっつけられた! 「世の中にはこんな強い棋士がいるのか」って実感しました。
石田さんとはよくお酒を飲みました。いつも小粋な小料理屋さんに連れていってもらってね。大衆酒場じゃないのが石田さんです。そういうところには決まってきれいな女将さんがいました。様子を見ていると、どの女将も石田さんに「ほの字」っぽかった。まったく、面白くない!
モテたのは女将にだけじゃありません。あるとき、とんでもない情報をキャッチしました。「女流棋士の○○さん、石田さんと一緒になれれば死んでもいい!って言っているらしいよ」。碁もめっぽう強くて女性にもモテる。石田さんを心の底から呪ってやろうかと思いました(笑)。
碁に対する愛情、もっと具体的に言えば、「名人」というものに対する愛着は強烈でした。名人戦リーグに入ったときは名人になることに全人生を賭けていた。だから碁以外は何をするにも頼りなさげでね。女性はそういう不器用な男をほっておけないんでしょ? 今思うと石田さんを好きそうだった女性はみんな素敵だったなあ。素敵じゃない女性には気付かれないような、そういう不思議な雰囲気を持っています。
石田さんはとても物静かな半面、怒ると怖いです。あるとき半ば冗談で、石田さんに「かわいい女の子とお知り合いになりたいなあ」みたいなことを言ったんです。そしたら石田さん、まじめにあちこちに声をかけてセッティングしちゃった! 現代風に言うと合コンって言うの? 焦っちゃってね。「ぼくには妻も子もいます。あれは冗談ですから、やめてください」と言ったわけ。そしたら烈火のごとくです…。ものすごく怒られました。しばらく口もきいてもらえなかったなあ。石田さん、ごめんなさい。でも、ぼくには無理です。
■『NHK囲碁講座』2015年4月号より

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