お坊さんが雨期に旅をしてはいけない理由

仏教の出家修行者(スリランカ)
『涅槃経(ねはんぎょう)』は、ブッダが涅槃に入る時の「最後の旅」の様子を描いたお経であるが、前半はブッダの死についてほとんど触れられないまま、旅行記のようなスタイルで話が進行していく。その中には、ブッダが弟子たちとともに「雨安居(うあんご)」と呼ばれる定住期を過ごす描写がある。これはどのようなものなのだろうか。花園大学教授の佐々木 閑(ささき・しずか)氏が解説する。

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インドには1年に3ヵ月ほどの雨期があり、その期間、お坊さんたちは旅を一旦止めて、1ヵ所に逗留しなければなりません。これを仏教用語で「雨安居」と言うのです。ちょうどペールヴァ村に向かう頃、雨期にさしかかったのでしょう、ブッダと弟子たちはこの村で雨安居に入ったのです。5月から7月くらいの時期です。
なぜお坊さんは雨期の間、旅をしてはならないのでしょうか。それは殺生の問題と関係しています。インドの雨期は土砂降りのスコールが続きますから、道も水であふれかえって、足下が見えなくなります。そんな中をやたらと歩きまわれば、知らぬ間に虫を踏み殺すことになるでしょう。「知らなかった」では言い訳になりません。大雨の中を歩けば虫を踏む、ということは分かっているのですから、それが分かっていて歩き回ればそれは「故意の殺生」ということになってしまいます。
雨の中を僧侶が歩いているのを人が見れば、「ああ、なんて思いやりのない人たちだ」と、これまた信用の失墜(しっつい)です。このような事態を防ぐためブッダは、「雨期の間は宿所を変えず、外出の機会をできるだけ減らすようにせよ」と命じたのです。この雨安居の習慣は厳密に守られていて、たとえば三蔵法師玄奘が中国からインドへ向かう旅の途中でも、雨期・雨安居の3ヵ月は旅先でじっと1ヵ所に留まっていたと記録に書かれています。
■『NHK100分de名著 ブッダ 最期のことば』より

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