究極のハレの食べ物「餅」の持つ意味と役割

年末には多くのお寺で餅つきが行われます。神様に餅を供える日本古来の習俗を仏教も取り入れ、仏様に餅を供えるようになったとされます イラスト:雉○
稲作を中心に生活をしてきた日本人にとって、餅は特別な存在で、深い関わりがあります。もち米から手間をかけてつくられる餅は、大事な行事の際にいただく食べ物で、「お寺のごはん」でも神聖なものとされてきました。
「貴重な餅をいただくことは、お世話になっている人や自然、食事そのものへの感謝につながります。今では一年中手に入る餅ですが、その意味を知り、ありがたくいただきましょう」と話す曹洞宗八屋山普門寺 副住職の吉村昇洋(よしむら・しょうよう)さんと、浄土真宗東本願寺派緑泉寺住職の青江覚峰(あおえ・かくほう)さんに、日本人と餅の深い関わりについて話を聞きました。

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お正月に供える鏡餅、地域色豊かなお雑煮。お米からつくられる餅は、日本人にとって究極のハレの食べ物といえる存在です。
餅は古来より、神様に供える神饌(しんせん)として特別な食べ物とされてきました。稲作を中心とする日本の農耕文化においては、自然をつかさどる神に対し、春には豊作を願い、秋には収穫を感謝する祭りが行われます。その際の捧げ物として、収穫物である米がまず重要であるものの、それを手間ひまかけて凝縮させた餅は、さらに特別なものと考えられてきました。その餅を食べることはすなわち、特別な力を自分の中に取り入れること。こうして餅は、儀礼のときにだけいただく“ハレの食べ物”になっていったと考えられています。
ちなみに、昭和16〜17年にかけて民間伝承の会が全国で行った「食習調査」では、“ごちそう”とは何であるかとの問いに対し、ほとんどの地域の人が「餅」と答えています。は日本人にとって、かくも長い間、めったに食べられないごちそうであり続けていたのです。
現在でも餅は、お正月をはじめとする年中行事には欠かせない食べ物です。まずは、お正月の鏡餅。鏡は、神道ではご神体にもなる神聖なもの。それに似せてつくった神聖な供え物であることが、その名前の由来だといわれています。雑煮は、神に供えた餅をおろして、他の供え物と合わせて煮たのがはじまりだとか。桃の節句に供えるのは菱餅や草餅。菱は、江戸時代より以前はお正月に供える餅だったといいます。5月、端午の節句にいただくのは、柏餅やちまき。春と秋のお彼岸には、ぼた餅(おはぎ)がつくられます。年中行事以外にも、子どもの健やかな成長を願って餅を踏ませる行事や、結婚式に餅を配る風習などもあります。
餅は今でも、日本人の季節と人生の節目に寄り添う、特別な食べ物だといえそうです。
■『NHK趣味Do楽 いただきます お寺のごはん 〜心と体が潤うレシピ〜』より

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