本当は間違いだらけ!? 震災から4年経った「福島の真実」とは
- 『はじめての福島学』
- 開沼 博
- イースト・プレス
- 1,620円(税込)
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東日本大震災から4年が経過しました。今年も3月11日前後には、震災関連の報道が相次ぎ、多くの方がそれを目にしたと思います。各メディアがそれぞれのスタンスで報じており、また一部ではありますが、原発事故の被害の大きい福島県に関しては、いまだにセンセーショナリズムに走った報道もあります。
そうした偏った報道、また人々の「間違った見方や認識」に異を唱えるのは福島県いわき市出身の社会学者・開沼博さん。開沼さんは3.11以前から「原発を通した戦後日本社会論」をテーマとして福島の原発及び周辺地域を研究対象に活動。震災以降の4年で『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『フクシマの正義「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)などの著書を上梓し、さらに福島の復興に力を注がれてきた方です。
そんな開沼さんが、2015年3月11日に発表したのが本書『はじめての福島学』。震災、原発事故から4年が経過した今なお、センセーショナルに福島を報じる向きがあること。また、「放射線の問題は、不確かな部分が多すぎる」ことを理由に、「科学では語れない」と開き直る人がいること――本書で開沼さんは、原発事故初期ならまだしも、4年が経過した現在において、そうしたセンセーショナリズムや開き直りは「知的怠慢」と一蹴します。
「初期において、科学的に不確かだったことの大方が科学で語れるようになり、その対応策・処方箋も用意されてきた。未だ『不確かな部分』もあるが、時間はかかるにせよ、可能な限り詳細にデータを蓄積することで、遠くない未来に科学的に明確に説明できるようになってくることも多い。それが現在までに見えてきていることです。その現状を認識することなく、『福島を理解しているふり』、『福島に寄り添っているふり』をするのは、ただの迷惑につながっていくことを理解すべきです」(本書より)
特にセンセーショナリズムに走りがちなメディアの報道姿勢を、時にかなり激しい口調で批判する開沼さん。しかし、そうしたセンセーショナリズムの背景には「善意がある」ともいいます。つまり、「人の目を引くような話題」を発信することで「多くの人に忘れ去られようとしている福島の問題」に目を向けてほしいという情報の「送り手」の意識、それに呼応する情報の「受け手」の意識。両方の「無意識の共犯関係」がそうした報道を生んでいる、と。その上で、開沼さんはこう結論付けます。
「『福島の問題で人の目を引くような話題』を打ち出したいならば、このような共犯関係をいかに避けるか、常に意識的になるべきです。そのためには、まずはそこにある事実を丁寧に見据えること。そして、それが本当にそこで暮らしている人のためになるのか考えぬくことが重要です」(本書より)
福島における放射線量や被爆の実態。ことごとく破壊されたと思いこんでいる福島の各産業の今。さらに人口動態や、出生率、企業倒産件数、有効求人倍率、帰還困難区域の範囲......本書で事細かく提示される福島に関する様々なデータと、(一般的な)日本人がうっすらと抱いている原発事故の被害者・福島の"真実"との大きなギャップ。本書を読めば、多くの日本人が「福島問題」を大きく間違えて捉えていることに気づかされます。また、本来、別個で議論されるべき、「原発の善悪の問題」「放射線の安全・危険の問題」「政府・東電の責任の問題」「現に福島で生じている問題」がすべて一緒くたにされて、短絡的な善悪二項対立で語られることの弊害についても。
本書の帯に書かれた【「福島難しい・面倒くさい」になってしまったあなたへ―――】のメッセージ。思わずこの言葉にドキっとされた方に、読んでほしい一冊です。