急成長でカオス度増 フェラーリの脇を牛が歩くインドの「今」

すごいインド: なぜグローバル人材が輩出するのか (新潮新書 585)
『すごいインド: なぜグローバル人材が輩出するのか (新潮新書 585)』
サンジーヴ・スィンハ
新潮社
778円(税込)
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 インドといえば、何を思い浮かべるでしょうか。まずは何と言ってもカレー、そしてシタール、ガンジス川......しかし、こうしたイメージはもはや古いのかもしれません。

 実際の今のインドはといえば、2021年には中国を抜いて世界一の人口になると予想されていること、GDPも近い将来日本を抜き、アメリカと中国に次ぐ世界第三位になると見込まれていること、世界的組織のトップにインド出身者が次々と就任していること、数多くのグローバル人材が生まれ続けているということ......といった、これからの世界で大きな役割を担っていくであろう数々の側面を持っているのです。

 本書『すごいインド』の著者であるインド人のサンジーヴ・スィンハさんは、23歳の時に来日して以来、20年近く日本で働いているそうですが、その間毎年インド・ムンバイへ出張で訪れる度、街の急激な変化に驚くと言います。

「90年代半ばのインドでは、大都市の中心街にも荷車を引く牛の姿がありました。野菜や魚、カレーを売っている屋台もあちこちで見かけたものです。それが今では、東京でも滅多に見かけないようなフェラーリやポルシェといった高級車が街を疾走し、近代的な高層ビルが林立しています。スーツを着ている人など昔はいませんでしたが、最近はスマートフォンか片手に忙しそうに街を歩くビジネスマンの姿も増えました。急速な高度経済成長によって、都市の風景や生活も一変したのです」

 経済自由化によってもたらされた、こうした「新しいインド」が広がり続ける一方で、インド全体で見れば、その人口の七割以上は、現在もカーストや汚職が蔓延り、教育水準も低く、貧困の中で暮らす、いわゆる「古いインド」に属しているのだそうです。サンジーヴ・スィンハさんは次のように続けます。

「ただし、フェラーリの脇を今でも牛が歩いていたりする。高層ビルのすぐ近くにスラム街が残ってもいる。こうした落差の激しさもまた今のインドならではと言えるでしょう」

「古いインド」と「新しいインド」とが入り混じっている現在のインドの状況。本書ではその他にも、国民の平均年齢が20代半ばだということ、IITという超難関大学の存在、インドで最も有名な日本企業がスズキであるということ、貧困層では自転車よりも先に携帯電話を買うこと、インドの田舎の人に7月1日生まれが多い理由など、現在、そしてこれからのインドについて考えるうえで、知っておきたい情報が詰まっています。
 
 インドと日本、そのどちらも熟知している著者だからこそ伝えられるインドという国、そこで暮らす人々や考え方について。冒頭のような印象をインドに対して持っていた人には、驚きの連続となる一冊かもしれません。

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